戸籍行政をめぐる現下の諸問題
土手 敏行(法務省民事局民事第一課長)
は し が き
「家族法・戸籍制度研究会」の第39回定例研究会は,新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け,去る令和2年12月5日,従来の会場での開催に代えて,インターネットを利用したテレビ会議システムによるオンライン方式にて開催されました。今回の研究会では,法務省民事局民事第一課の土手敏行課長から「戸籍行政をめぐる現下の諸問題」と題する講演が行われました。
今回の講演におきまして土手課長は,まず,令和元年改正戸籍法について,すでに施行された条文を振り返るとともに,令和5年度施行予定の戸籍情報連携のためのシステムに係る改正内容を,わかりやすくまとめてくださいました。また,無戸籍の解消について,法制審議会での嫡出推定規定に関する検討,当事者への実例紹介のための工夫や丁寧な手続案内など,近時の取組をご紹介されるとともに,今後とも,正しく情報を把握し,関連機関などとの連携による取組の継続の必要性を述べられています。
そして,昨今の戸籍行政を取り巻くトピックとして,読み仮名の法制化等,戸籍の届書の署名・押印についてもご解説をいただきました。読み仮名の法制化等については,現行制度の概要と今後の工程についてご説明されるとともに,氏名の読み仮名が,デジタル社会における重要な要素として,これを法制化する場合の論点整理と対応方針の決定が求められている旨をお話されています。また,戸籍の届書の署名・押印については,これまでの法令の変遷を整理しながら,戸籍の届出のオンライン化に関する問題,今後の法令,通達等の改正の検討についても言及されています。
ご講演後,本誌発刊までの間,去る令和3年2月9日には「民法(親子法制)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられました。また,同日,「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」が第204回国会にて提出され,4月6日の衆議院本会議で可決,同月14日の参議院本会議で審議入りしています(5月10日現在未成立)。今後も,これらのテーマも含めて家族法・戸籍制度に関する様々課題について検討や議論がますます進められていくと推察されるところ,本講演で行われた土手課長の解説につきましては,戸籍実務に携わっておられる方々をはじめとして,家庭裁判所の職員の方々,家族法及び戸籍制度の研究に当たっておられる方々にとっても裨益するところが少なくないと思われます。そこで,今回の戸籍時報特別増刊号においても,講演者及び家族法・戸籍制度研究会のご了承を得て,その講演内容を掲載させていただくこととしました。
終わりに,本書の編集に際し「家族法・戸籍制度研究会」の格別のご配慮に対し,厚く御礼申し上げますとともに,本書が読者の方々のために多少でもお役に立てれば幸いであります。
なお,読者の皆様には,「戸籍時報」及び同増刊号の編集について,今後ともいっそうのご指導,ご鞭撻をいただきますよう,お願い申し上げます。
令和3年5月
戸籍時報編集部