ハーグ子奪取条約の運用と実務
~現状と課題~
橘高真佐美(弁護士)
は し が き
去る令和3年6月9日,「家族法・戸籍制度研究会」の第40回定例研究会が,日本出版クラブ会館(東京都千代田区)でのご講演およびオンラインによる同時配信の形で開催されました。今回の研究会では,弁護士の橘高真佐美先生から,「ハーグ子奪取条約の運用と実務~現状と課題~」と題する講演が行われました。
今回の講演におきまして橘高先生は,日本においても2014年1月24日に批准し,同年4月1日に発効した「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)及びその国内実施法である「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律」(実施法)の概要と,条約発効後7年間における本制度の運用状況として,日本における返還援助や面会交流援助の申請件数や裁判の動向,執行状況等について,実際に事件を受任された豊富なご経験・ご見識から,豊富な資料とともに分かりやすくご解説をいただきました。特に注目される点のひとつである子の引渡しの執行に関しては,家事事件手続法の改正のご解説も含めて丁寧にお話しされています。
また今回は,橘高先生が実際に受任され支援を続けていらっしゃるケースについて,当日のご講演におけるご紹介だけでなく,本誌での実例紹介のために特別に,当事者からの特別寄稿をいただきました。子どもに寄り添った事案の解決のために当事者が乗り越えなければならなかった困難や長期的な取組等について,ご経験者にしか語ることができないメッセージを,ぜひお読みいただければと存じます。
本講演で行われた解説につきましては,戸籍実務に携わっておられる方々をはじめとして,家庭裁判所の職員の方々,家族法及び戸籍制度の研究に当たっておられる方々にとっても裨益するところが少なくないと思われます。そこで,今回の戸籍時報特別増刊号においても,講演者及び家族法・戸籍制度研究会のご了承を得て,その講演内容を掲載させていただくこととしました。
終わりに,本誌の編集に際し「家族法・戸籍制度研究会」から賜りました格別のご配慮に対し,厚く御礼申し上げますとともに,本誌が読者の方々のために多少でもお役に立つことができれば幸いです。
読者の皆様には,「戸籍時報」及び同増刊号の編集につきまして,今後とも一層のご指導,ご鞭撻をいただきますよう,お願い申し上げます。
令和3年11月
戸籍時報編集部