- 2018年10月刊
- 四六判 336頁
- 定価2,750円(本体2,500円)
- 978-4-8178-4503-0
本書は、今後の日本のあるべき姿を考えるうえで
必要不可欠な極めて貴重な社会的財産である
- 山脇康嗣 -
「現状の制度はどうなっているのか?」
「優秀な外国人を確保するにはどうすればよいのか?」
「たくさんの外国人が来ても軋轢が生じないようにするにはどうしたらよいのか?」…等、
現在の法制度の仕組み・歴史的背景から今後の展望までを、
法律学者(元法務省入国管理局長) と政治学者が紐解く。
髙宅茂・瀧川修吾
『外国人の受入れと日本社会』書評
本書は、法務省入国管理局長として出入国管理行政の重責を担ってきた著者らが、日本のこれまでの外国人受入政策を緻密に整理、分析した上で、今後の展望及び未来へのグランドデザインを提示している。著者が最終章で示すグランドデザインは、大胆なものだがこれまでの職務業績に基づく手堅い視点に基づいており、強い説得力がある。世間的には「歴史的な政策転換」であるといわれている「骨太の方針2018」による新たな外国人受入制度(在留資格「特定技能」の新設)であるが、同制度とこれまでの受入政策との関係性に係る著者による緻密な説示には、出入国管理行政を遂行してきた責任者が、政策としての一貫性(連続性)と整合性を提示することによって、無用の混乱を招くことなく、円滑に次世代につなぐためのバトンのような意味もあるのではないかと感じた。いずれにしても、本書は、今後の日本のあるべき姿を考える上で必要不可欠な、極めて貴重な社会的財産である。
第1章から第3章までは、日本のこれまでの外国人受入政策が緻密に整理、分析されている。入管業務を多く取り扱っている実務家にとってすら「目から鱗」といえるような本質的な視点での摘示が随所にみられる。例えば、①多用される特定活動告示に関して、「基本となる外国人の受入れに関する政策を無意味としてしまうような形で告示を定めるということまではできないと考えられる。あくまで、現在の外国人の受入れに関する政策を前提に、その例外を補充的に定めることができるものと理解すべき」との指摘(37頁)、②退去強制事由の中には、上陸拒否事由との対比で「入国拒否事由」としての役割をも有するものがあることの指摘(44頁、74頁、86頁)、③再入国者について、在留資格認定の要件及び在留期間適合性の要件が上陸審査の対象とならない理論的理由(90頁)、④日系人の受入れ自体は、平成元年入管法改正前から行われており、同改正によって、運用によってではなく法令により明確に規定されたという指摘(114頁)、また、当時、就労する目的で多数の日系人が来日するということが想定されていたわけではないとの指摘(115頁)、⑤近時の新たな外国人就労者制度と現行入管法との緻密な関係、特に、外国人の受入範囲の拡大であるものとそうでないものとの明晰な分類(157~183頁)、⑥新たな在留管理制度を中長期在留者に限定して適用する制度として創設した理由(223頁)等である。
第4章において、今後の展望が語られているが、特に次の箇所は必読である。即ち、①これまでの政策との整合性を考えるにあたっての前提となる、「第1次出入国管理基本計画」の3つの注意点と適用範囲(研修生、技能実習生、留学生への射程)(244~245頁)、②「骨太方針2018」の緻密な読み方(「一定の専門性・技能を有」する外国人を受け入れるとされ、単純労働者を受け入れるとはされていないこと)、もともと「単純労働」は法律上の概念ではなく、その正確な定義もなされていないこと(252頁)、③専門的技術を必要とする業務に従事する者及び一般の日本人では代替することのできない業務に従事する者の範囲自体も、経済社会の状況の変化に対応して随時変化しうるのであって、「単純労働者」を受入れの対象とされていない外国人労働者として捉えた場合、その意義は時代によって異なることの指摘(252頁、254頁)、④もともと、受入れの対象となっていない外国人労働者を一括して「単純労働者」と表現することに無理があり、個々の分野、職種等に着目して、受入れの可否等を検討すべきであり、「骨太方針2018」もそのような立場に立つものとして理解できること(254頁)、⑤「移民」は、入国管理関係では、その国に永住する人を意味する語として使われるのが通常であるところ、「骨太方針2018」においてもこの意味と理解することが可能であり、厳密には、永住する目的での又は永住することを前提とした受入れではないということを意味するものと考えるべきであるとの指摘(255頁~256頁)、現行の入国管理制度の下においては、「移民」の受入れの可否ということよりも、「永住者」の在留資格を取得して永住者となることを認めるか否かが実際的意味を有するとの指摘(275頁)、⑥そのような理解を前提とした上での「骨太方針2018」により示された今後の外国人就労者の受入れの方向の正確な整理(256頁)は、必読である。特に、これまでの受入政策の一貫性を理解する上では、上記①が重要である。そして、②~⑥は、「単純労働」や「移民政策」といった言葉の意義が共有されないまま荒っぽく使用され、とかく感覚的な言説がなされがちな新たな外国人受入政策の是非について、冷静で実証的な議論をするために不可欠といえよう。
そして、最終章である第5章において、未来へ向けたグランドデザインが提示される。著者にしか論じ得ない、大胆な内容でありつつ堅実な視点での提言である。是非じっくり読み込んで頂きたいため、詳細な説明はあえて避けるが、ポイントは次のとおりである。①「外国人の受入れが、わが国の安全・安心と社会の安定を妨げることなく経済、社会の発展に資するようにすること」が在留管理の役割と捉えた上で、入管法に基づく「狭義の在留管理」に加えて、「社会の分断やそれによる軋轢の発生、治安の悪化などを防ぐために受け入れた外国人が、わが国において安定した生活を営むサポートをすること」を、「広義の在留管理」と位置付ける(288頁)、②「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を実施するためには、狭義の在留管理を担当する機関に加えて、広義の在留管理を担当する多くの機関も外国人の在留状況を適時に正確に把握する必要がある(289頁、296頁)、③入管法や雇用対策法に基づく情報の取得は、主として狭義の在留管理や雇用管理の目的のために行われるのであって、法務省や厚生労働省以外の行政機関が一般的に利用することはできない。そのため、広義の在留管理を担当する行政機関の多くは、戸籍制度や住民基本台帳制度により得られる情報を使っているところ、日本においては、戸籍制度及び住民基本台帳制度が整備され、その上に立って、人々の民事上の生活が営まれるとともに行政が運営されている(298~300頁)。④しかし、外国人の場合、戸籍がないため、身分関係の把握に係る様々な問題が生じる(300頁)。また、戸籍が編製されない外国人については、戸籍の附票も作成されないため、外国人の在留の実態に即した住所履歴・在留状況の継続的な把握が困難な面がある(301~302頁)。こうした問題意識を踏まえた上で、最終節(305~315頁)において、在留外国人の身分関係を明らかにする継続的な台帳制度や在留外国人総合情報センターの創設等による中長期在留者に関する情報の集中と利用、各関係機関の連携といった具体的かつ合理的な対応策が提示され、圧巻である。
本書は、最も正確に過去の制度を振り返り、最も冷静に新たな受入制度を分析した上で、これからの外国人との共生社会実現のために必要な情報基盤構築の手法を具体的に述べたものとして、一般国民、実務家、政府関係者の全てにとって必読の書といえる。
書評者 山脇 康嗣(やまわき こうじ)
入管法業務、国籍法業務、外国人労務管理、対日投資支援など、外国人に関連する業務を重点的に取り扱っており、相当の実績があります。
所属弁護士会 第二東京弁護士会
登録弁護士年 2007年
略歴
平成8年3月 私立岡山白陵高等学校卒業
平成12年3月 慶應義塾大学法学部法律学科卒業
平成15年3月 東京入国管理局長承認入国在留審査関係申請取次行政書士、海事代理士
(〜平成18年11月)
平成18年3月 慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)修了
平成18年9月 司法試験合格
平成18年9月 慶應義塾大学法学部司法研究室講師(労働法担当)
(〜平成18年11月)
平成19年12月 第二東京弁護士会登録、さくら共同法律事務所入所
平成21年12月 慶應義塾大学大学院法務研究科ティーチング・アシスタント(憲法、行政法、労働法担当)
(〜平成23年3月)
平成23年4月 第二東京弁護士会国際委員会副委員長
(~平成30年3月)
平成24年9月 日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)
(〜現在)
平成26年7月 税理士法51条1項に基づく東京国税局長宛税理士業務開始通知
平成29年10月 日本行政書士会連合会法律顧問
(〜現在)
平成29年11月 さくら共同法律事務所のパートナーとなる
平成30年8月 慶應義塾大学大学院法務研究科グローバル法研究所(KEIGLAD)客員所員
『外国人の受入れと日本社会』
- 2018年10月刊
- 四六判 336頁
- 定価2,750円(本体2,500円)
- 978-4-8178-4503-0
全国主要特約書店【2018年3月1日現在】
第1章 外国人の受入れに関する政策とそれを実現するための法制度
第1節「外国人の受入れ」とは?
第2節 外国人の受入れに関する政策とそれを実現する法制度
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1 外国人受入れに関する政策と入国管理法制
- (1) 外国人の受入れに関する政策
- (2) 外国人の受入れに関する政策を実現する在留資格制度
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2 新規入国者の受入れの開始―上陸許可制度
- (1) 一般上陸の許可
- (2) 上陸のための条件
- (3) 入国の規制
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3 在留中の外国人の受入れ
- (1) 経過滞在者の在留資格の取得
- (2) 一時庇護のための上陸許可を受けて在留している外国人の在留資格の取得
- (3) 在留資格の変更
- (4) 永住許可
- (5) 退去強制手続及び難民認定手続における在留資格の取得
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4 外国人の受入れの継続
- (1) 在留の継続の要件としての在留資格
- (2) 在留期間の更新制度
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5 外国人の受入れの終了
- (1) 本邦に在留する法的地位の終了
- (2) 在留資格の取消制度
- (3) 退去強制制度
第2章 外国人の受入れに関する政策の変遷
第1節 外国人の受入れに関する政策と入国管理法制
第2節 外国人の受入れに係る入国管理法制の変遷
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1 入管法制定時から平成元年までの改正
- (1) 入管法の制定と制定当時の状況
- (2) インドシナ難民の受入れと昭和56 年の入管法の改正
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2 平成元年の改正
- (1) 改正の背景
- (2) 改正の目的
- (3) 改正の内容
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3 平成元年の改正後の状況と対応
- (1) 改正後の受入れ状況
- (2) 平成元年の改正後の状況に対する対応
- (3) 技能実習制度の創設と整備
第3節 受入れの消極要件(上陸拒否事由及び退去強制事由)の整備等
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- (1) 昭和56年から平成18年までの入管法の改正
- (2) 関係機関との連携の強化
第3章 外国人の受入れの拡大と入国管理法制の再整備
第1節 外国人の受入れの拡大と促進
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1 外国人就労者の受入れの拡大
- (1)「 特定活動」の在留資格による外国人就労者の受入れ
- (2) 特区制度による外国人就労者の受入れ
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2 在留資格の整備等
- (1) 平成26 年の改正
- (2) 技能実習法の制定等
第2節 平成21 年の入管法と住民基本台帳法の改正
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1 改正の背景
- (1) 平成21 年の改正前の在留管理制度
- (2) 外国人の在留状況の変化と外国人登録制度の問題点
- (3) わが国に在留する外国人と社会保障制度
- (4)「 生活者としての外国人」に関する総合的対策
- (5) 外国人の在留状況の正確な把握の必要性
- (6) 外国人の在留管理に関するワーキングチーム
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2 在留管理制度の改正
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3 外国人住民基本台帳制度の創設
第4章 今後の展望
第1節 外国人の受入れ範囲の拡大
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1 従来の基本的な方針とその変化
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2 経済財政運営と改革の基本方針2018
第2節 今後の受入れ範囲に関する考え方の整理
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1 2018 年の新方針の考え方
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2 今後の外国人就労者の受入れの基本的方向
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3 外国人就労者の受入れの方法
第3節 中長期在留者の在留の現状
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1 在留外国人総数
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2 在留資格別在留外国人数の推移
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3 永住者の増加
第5章 未来へ向けたグランドデザイン
第1節 中長期在留者の適正な在留と安定した生活
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1 予想される在留状況の変化と適正な在留の確保
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2 広義の在留管理
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3 広義の在留管理に必要な情報とその管理
第2節 広義の在留管理のために必要な基盤の整備
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1 在留外国人の身分関係を明らかにする継続的な台帳制度
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2 中長期在留者に関する情報の集中と利用
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3 未来へ向けた制度のイメージ
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髙宅 茂(たかや しげる)
1981年4月法務省入省。
入国管理局審判課法務専門官などを経て、1993年2月から1996年3月まで外務省に出向し在大韓民国日本国大使館一等書記官兼領事として査証業務等に従事。
その後、法務省入国管理局参事官、同局入国在留課長、同局総務課長、福岡入国管理局長、大臣官房審議官、東京入国管理局長などを経て、2010年12月法務省入国管理局長。
2013年3月法務省退官。
2015年4月から2016年3月まで日本大学総合科学研究所教授。
2016年4月から日本大学危機管理学部教授学歴
東京都立大学 理学部 物理学科 1973/03卒業
東京都立大学 法学部 法律学科 1975/03卒業
東京都立大学 社会科学研究科 基礎法学専攻 修士 1977/03修了
東京都立大学 社会科学研究科 基礎法学専攻 博士 1981/03単位取得満期退学学位
法学修士 東京都立大学
研究分野
公法学(入管法、行政法)
研究キーワード
出入国管理、在留管理、出入国管理及び難民認定法、危機管理、入国管理行政、水際対策
著書
諸外国における外国人登録制度に関する研究(法務研究報告書第73集第2号) 法務総合研究所 1986/02
入管法大全(I 逐条解説、II在留資格) 日本加除出版株式会社 2015/03/31
高度人材ポイント制 日本加除出版株式会社 2016/02/09
よくわかる入管法第4版 有斐閣 2017/05/25 -
瀧川 修吾(たきがわ しゅうご)
経歴
日本大学 通信教育部 インストラクター 2004/02-現在
日本大学 法学部 ティーチングアシスタント 2005/09-2006/03
日本福祉教育専門学校 非常勤講師 2005/10-2009/03
洗足学園短期大学 非常勤講師 2006/04-2009/03
日本大学 文理学部 非常勤講師 2007/04-2014/03
LEC東京リーガルマインド大学 非常勤講師 2007/09-2012/03
日本大学 法学部 ティーチングアシスタント 2008/05-2009/03
日本大学 法学部 非常勤講師 2009/04-2011/03
静岡産業大学 経営学部 非常勤講師 2009/04-2011/03
日本大学 歯学部 非常勤講師 2009/04-2011/04
日本大学 通信教育部 非常勤講師 2010/04-2016/03
日本橋学館大学 リベラルアーツ学部 総合文化学科 専任講師 2011/04-2013/03
日本大学 法学部 非常勤講師 2013/04/01-2017/03/31
日本橋学館大学 リベラルアーツ学部 総合文化学科 准教授 2013/04-2014/03
日本医療科学大学 保健医療学部 非常勤講師 2013/04-2015/03
日本大学 生物資源科学部 非常勤講師 2013/04-2016/03
開智国際大学 リベラルアーツ学部総合文化学科 准教授 2015/04-2016/03
日本大学 危機管理学部 准教授 2016/04/01-現在
日本大学大学院 総合社会情報研究科 准教授 2017/04/01-現在学歴
日本大学 法学部 政治経済学科 1997/03卒業
日本大学 法学研究科 政治学専攻 博士前期 1999/03修了
日本大学 法学研究科 政治学専攻 博士後期 2006/03中退
日本大学 法学研究科(再入学) 政治学専攻 博士後期 2009/03修了学位
博士(政治学) 日本大学
修士(政治学) 日本大学
学士(法学) 日本大学研究分野
日本史、政治学
研究キーワード
思想史、日本史、政治学、征韓論、社会福祉
著書
征韓論の登場 櫻門書房 2014/09/15
社会福祉シリーズ19 権利擁護と成年後見制度[第4版]-権利擁護と成年後見・民法総論 弘文堂 2018/02/15
社会福祉シリーズ20 更生保護制度[第3版] 弘文堂 2017/03/30
法学入門 光生館 2015/03
社会福祉シリーズ19 権利擁護と成年後見制度[第3版]-権利擁護と成年後見・民法総論 弘文堂 2015/02
など論文
学術出版にまつわる諸作業の電子化に潜む陥穽― 研究教育者の視点から 開智国際大学紀要第15号 2016/02
2014年学界展望/政治史(日本) 年報政治学2015-Ⅱ 代表と統合の政治変容 2015/12
2012年書評/政治史(日本・アジア):北岡伸一『日本政治史-外交と権力』有斐閣,2011年/坂野潤治『日本近代史』筑摩書房,2012年 年報政治学2013-Ⅰ
宗教と政治 2013/06
『江湖(ごうこ)新聞』と福地櫻痴 『日本橋学館大学紀要』 2012/03
2009年学界展望/政治思想(日本・アジア) 年報政治学2010-Ⅱ ジェンダーと政治過程 2010/12 ISSN0549-4192
など