改訂版境界の理論と実務
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7〈9〉  裁判所構成法14条の対象を筆界とすることの当否につき,七戸克彦監修『条解不動産登記法』(弘文堂,平成25年)729頁以下〔小柳春一郎=下川健策〕。の手続を取ることなく隣地に立ち入ったとしても社会的相当行為として違法性が阻却される場合があり得よう。隣地所有者が不明とはいえない事案に関する東京地判平成25年12月25日(公刊物未登載)は,自己所有地上に敷かれたコンクリートを一部損壊する際,隣地に無断で立ち入ったと推認されるケースにつき,立ち入った場所は隣地の境界付近の若干の土地部分にすぎなかったと認定の上,同立入り行為が不法行為を構成するほどの違法性を有するものとまで認めることはできないと説示している。 エ 隣地所有者に対する境界確認請求 前記イの隣地使用請求権は,さらなる基本的な請求権としての隣地所有者に対する境界確認請求権を前提としている。この請求権については,民法上明確な規定はないが,以下に略述するとおり,裁判実務では,その存在を当然の前提としている。 ①  裁判所構成法(明治23年法律6号)14条は「不動産ノ経界ノミニ関ル訴訟」は区裁判所の管轄に属すると規定していた。 ②  旧民法(明治23年法律28号・未施行)239条は「凡ソ相隣者ハ地方ノ慣習ニ従イ樹石杭杙ノ如キ標示物ヲ以テ其連接シタル所有地ノ界限ヲ定メント互イニ強要スルコトヲ得」と明記していた。 上記2つの法律を併せ読むときは,明治期に法律が創生された当初から,相隣地所有者は,互いに境界(厳密にいえば,①は筆界〈9〉,②は所有権界)の確認を相手方に対して請求できる権利を有することが,当然の前提とされていた。今日においても,所有権の範囲(所有権界)確認請求,筆界確定請求のいずれについても直接の明文根拠はないが,以下の判例に現れているとおり,法律に規定するまでもなく明白だというのが,裁判実務の根底にある(551頁以下)。 ③  現行民法(明治29年法律89号)の下で,大判明治44年12月23日民録17輯886頁は,相隣地所有者間で地積更正の当否が争われた事案につき「土地ノ所有者ハ其権利ノ安全ヲ確保スルニ必要ナル限リ土地所有権ノ効力第1章 境界概念の多様性

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