改訂版境界の理論と実務
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11〈19〉  新潟地判昭和39年12月22日下民15巻12号3027頁は,越境樹枝の剪除を行うに際し,単に越境部分のすべてについて漫然それを行うことは許されず,相隣関係の規定が設けられた趣旨から,当事者双方の具体的利害を充分に較量して剪除の妥当な範囲を定めなければならないと解すべきであるとしている。同旨,横浜地判平成21年6月5日(公刊物未登載)。〈20〉  昭和41年メートル法施行前の建物は,1尺5寸。〈21〉  民法234条1項にいう50㎝の間隔は,建物の側壁及びこれと同視すべき出窓その他張出部分と所有権界との最短距離を定めたものであるとするのが裁判例である。東京地判平成4年1月28日判タ808号205頁。〈22〉  大阪高判平成10年1月30日判時1651号89頁。382頁注〈2〉参照。〈23〉  最(3小)判昭和55年7月15日判時982号111頁。〈24〉  最(3小)判平成元年9月19日民集43巻8号955頁。塩月秀平「判解」平成元年度309頁。 ⑸ 枝・根の除去 土地所有権の境界線を越えている枝は,竹木の所有者に切らせ,根は自ら切ることができる(民法233条)〈19〉。 ⑹ 境界付近の工作物築造 建物は,別段の慣習がある場合を除き,所有権界から50㎝〈20〉以上離さなければならない〈21〉。もっとも,建築着手時から1年経過又は建物完成後は,差止めを求めることができず,損害賠償を求め得るのみである(民法234条,236条)。ただし,隣地建物所有者から,50㎝の距離保持に関する協議申入れがあるにもかかわらず,合理的理由もなくこれを拒み続ける場合には,不法行為(民法709条)が成立することがある〈22〉。 なお,50㎝離されているか否かは,建築確認手続(建築基準法6条1項)中では審査の対象とされていない〈23〉。そのためか,建築確認通知書に添付された図面は,実務上,境界(所有権界又は筆界)の判定のための証拠資料としては,価値が低いものが多いようである。 また,防火地域・準防火地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては,慣習の有無にかかわらず,民法の特則である建築基準法65条に基づいて,接境建築すなわち外壁を隣地境界線(所有権界)に接して設けることができると解されている〈24〉。 ブロック塀等の工作物が隣地に越境する瑕疵があった場合,売主は契約不適合責任(平成29年改正民法562条~564条)を負うことになろう〈25〉。第1章 境界概念の多様性

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