改訂版境界の理論と実務
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12 ⑺ 観望制限 所有権界から1m未満の距離に他人の宅地を見通すことのできる窓・縁側・ベランダを設ける場合には,別段の慣習がある場合を除き,目隠しを付けなければならない(民法235条,236条)〈26〉。プライバシー保護を目的としている規定であるから,工場・倉庫・事務所の敷地等を見通せても,同規定の適用はない〈27〉。 ⑻ 掘削制限 ①井戸・用水だめ・下水だめ・肥料だめを掘るには,所有権界から2m以上,②池・穴蔵・し尿だめ〈28〉を掘るには,所有権界から1m以上の距離を保たなくてはならない。また,③導水管を埋め,又は溝・堀を掘るには,上述の②と異なり,所有権界から1mを超えることを要しないが,所有権界からその深さの2分の1以上の距離を保たなければならない(民法237条)。 所有権界の近くで上述①~③の工事をする場合には,土砂の崩壊又は水・汚液の漏出を防ぐために必要な注意をしなければならない(民法238条)。3 民法の規定と他の境界との関係 ⑴ 筆界・公物管理界・行政界との関係 前述2は,基本的には所有権と所有権がぶつかり合うときの私権調整の規定であるから,厳密にいえば,地番境の位置を公にしているにすぎない筆界については,これらの権利調整規定は適用されない。また,行政法規に由来する公物管理界・行政界についても同様である。第1編 境界の基礎知識〈25〉  東京地判平成25年1月31日判時2200号86頁(改正前民法上の瑕疵担保責任(平成29年改正民法の契約不適合責任)に関するもの)。〈26〉  裁判実務においては,隣接建物の所有者から,新築建物の一部撤去請求が提起されることが多い。その場合,建ぺい率・容積率には違反するが日影規制には違反しないことを理由に日照阻害等が受忍限度内であるとして棄却される一方,目隠設置請求については認容するというケースが目立つ。所有権界から1m未満にある新築建物1階北側の窓につき目隠設置を命じた例として,東京地判平成3年1月22日判時1399号61頁。〈27〉  東京高判平成5年5月31日判時1464号62頁。〈28〉  所有権界から1m未満の位置に設置された「し尿浄化槽」につき,民法237条の適用を否定した例として,東京高判昭和50年8月28日判タ333号211頁。

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