改訂版境界の理論と実務
57/90

13〈29〉  借地権界をめぐる裁判例として,熊本地玉名支判昭和46年4月15日下民22巻3・4号392頁,東京地判昭和60年10月30日判時1211号66頁,東京地判平成28年10月7日(公刊物未登載)等。〈30〉  地番・地目・地積それ自体は,旧幕藩体制下の表示をそのまま流用したものも多い。しかしながら,法理念的には近代的土地所有権創設前の地番境は,土地所有権を表象するものではないことから,筆界確定訴訟(570頁)や筆界特定制度(423頁)の対象となる筆界は,明治初年以降に創設されたものだけであるといえる。ただ,原始筆界が旧幕藩体制下の地番境を流用したものである場合においては,結論において旧幕藩体制下において形成された地番境を頼りに筆界の判定を行うこととなる(5頁)。〈31〉  1819(文政2)年11月成立の境界協議を基に境界を判定した事例として,大阪高判昭和36年5月27日下民12巻5号1209頁。 ⑵ 地上権界・借地権界・永小作権界との関係 地上権・借地権・永小作権と,相隣接する土地の所有権・地上権等とがぶつかり合う地上権界・借地権界・永小作権界については,所有権界同士のぶつかり合いと同じく,私権(相隣関係)の調整場面であるから,地上権界については,所有権界についての調整規定が明文で準用されている(民法267条)。借地(賃借)権界についても同規定は準用されるべきである〈29〉。1 歴史的成立過程 ⑴ 明治維新以前 筆界の形成も前記2款1(4頁)の所有権界と同様,明治初年に遡る。近代的土地所有権の成立とともにこれを公示するための仕組みとして地番と,その境としての筆界(地番境)も形成されていった〈30〉。旧幕藩体制下ないしそれ以前においても,土地の筆と筆との境は存在していた〈31〉が,所有権界を表象するものでなかったことは,前記2款1で述べたとおりであり,厳密には現行法上の「筆界」とはいえない。 ⑵ 原始筆界の形成過程 明治維新政府は,新政府の財政的基盤を地租に求め,そのために明治5年には壬申地券を発行して壬申地券地籍図の作成を始めたが,測量を伴わないのを原則としていたため,各土地の正確な区画・面積・地目の把握に努めるべく,明治6年7月28日制定の地租改正条例(太政官布告272号)により,改第1章 境界概念の多様性第3款 筆 界

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る