17〈41〉 枇杷田泰助「私の法務局経営管理論」青山正明編『民事法務行政の歴史と今後の課題(上)』(テイハン,平成5年)395頁。〈42〉 現・不登規77条1項。〈43〉 筆界概念不要論の代表として,宮崎福二「経界確定訴訟の性質について」判タ49号(昭和30年)1頁。学説を整理するものとして,大橋弘「判解」平成7年度330頁。詳細は,551頁以下参照。以外には「筆界」に関する明確な規定は存在しなかった。 ⑵ 平成17年改正前の不動産登記法等 筆界の縁由は,前記1⑵のとおり地券・地租台帳・土地台帳等の土地公簿制度ひいてはこれを承継した不動産登記制度にある。しかし不動産登記法上,地図に関する規定が置かれるようになったのは,昭和35年改正(不動産登記制度と土地台帳制度の一元化の完了(174頁))の折であり,しかもわずかに17条,18条の2か条のみであった〈41〉。 それゆえ平成17年改正前不動産登記法それ自体には「筆界」についての手掛かりとなる規定はなかったが,旧法を受けた省令等には,筆界という用語が存在していた。例えば,不動産登記法施行細則(省令)42条ノ4第2項には,「筆界」に境界標があるときは,地積測量図にその旨記載しなければならないとされていた〈42〉。 また,国土調査法(昭和26年法律180号)上の地籍調査に関する同法施行令別表第4は,一筆地調査等の測量誤差の限度を定めるにつき,「筆界点間の図上距離……と直接測定による距離との差異の公差」を求めている。さらに,地籍調査準則3条2号は,「一筆地調査に基いて行う毎筆の土地の境界(以下「筆界」という。)……」と定義して,国土調査法上「境界」とある文言を意識的に「筆界」と読み替えている。これらの規定は,意味内容に照らして,いずれもその用語どおり,公的存在である「筆界」についての規定であると解される。 このように,平成17年不動産登記法の改正前においては,少なくとも形式的意味における法律には,筆界という用語は存在していなかった。そのこともあって,当時の有力な学者や裁判実務家の一部は,「境界」とは,すなわち「所有権界」を意味するのであって,ことさら「筆界」を観念するのは有害無益である等とする筆界概念不要論を唱える者もいた〈43〉。第1章 境界概念の多様性
元のページ ../index.html#61