不動産登記制度は,不動産の表示及び不動産に関する権利を公示する制度として,国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円滑に資することを目的とするものであり,そのためには,個々の不動産に係る権利変動の過程,態様が登記記録上に正しく反映されるとともに,個々の登記の内容の真正が担保される制度的な仕組みが必要です。そこで,不動産登記法は,権利に関する登記については,原則として,相対立する当事者(登記権利者・登記義務者)が共同で申請すべきものとして,登記の真正の確保を図っています。 ところが,当事者の一方が登記申請に応じないときは,共同申請の方法を採ることができませんので,不動産登記法は,その者に登記手続をすべきことを命ずる確定判決があれば,他方の当事者による単独の申請を認めることとしており,これを「判決による登記」と呼んでいます。 この判決による登記については,権利に関する登記の共同申請主義の例外として,当事者の一方による単独申請が認められるほかは,特段の規定がない限り,一般の申請と同様に取り扱われますので,登記手続上の固有の問題はそれほどないように思われますが,実際には,数多くの関係判例・先例があり,かつ,一般の登記手続では認められないような取扱例も見受けられます。また,登記実務の側には,不動産登記手続のほか,民事訴訟手続や民事執行・保全手続についての理解が求められ,他方,訴訟関係者には,不動産登記手続についての理解が求められるでしょう。 本書は,拙著「設問解説 実務家のための相続法と登記」(平18,日本加除出版)と同様,従前勤務した法務局職場のいくつかにおいて,余暇を利用するなどして作成した判決による登記に関する執務資料がその基になっていますが,本書の執筆に当たっては,できるだけ具体的な事例を「設問」として取り上げるとともに,これに対する「回答」を示した上で,関連する従前の登記先例及び判例を紹介しながら,判決による登記手続について体系的に理解が深まるように工夫したほか,読者の利用の便を考慮して,関係する登記申請の書式を「付録」として掲げることとしました。はしがき 7はしがき
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