6 第1章 序 説⑵ 弁論主義 登記手続請求訴訟においても,例えば,所有権移転登記の抹消手続請求に対し,その更正の登記あるいは真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転の登記の手続を命ずることの許否といった問題が生ずる場合があります。最高裁昭和38年2月22日第二小法廷判決(民集17巻1号235頁)は,共同相続した不動産につき勝手に単独相続の登記をした共同相続人中の1人乙から売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を受けた第三者に対し,他の共同相続人甲が当該仮登記の抹消を求めた事案につき,原判決が乙の有する持分についての仮登記への更正登記手続を求める限度においてのみ請求を認容したのは正当であるとした上,この更正登記は,実質において一部抹消登記であるから,原判決は申立ての範囲内でその分量的な一部を認容したものにほかならず,当事者の申し立てない事項について判決をした違法はないとしています。 弁論主義とは,判決の基礎となる訴訟資料の収集・提出は当事者の責任であり権能であるとする建前をいい,この弁論主義の下では,裁判所が原告の請求が法律上理由があるかどうかを判断するに当たっては,専ら当事者が口頭弁論において主張した事実関係を前提としなければならず,また,その事実の存否についても,当事者間に争いのある場合に限ってこれを確かめることができるものとされています。もっとも,裁判所には,弁論主義を補充するものとして,事実上及び法律上の事項に関し,当事者に対する釈明権の行使が認められており(民訴法149条1項),公正妥当な裁判を実現する上で実際上大きな意味をもっています。ア 当事者の主張責任 弁論主義の下では,裁判所は,当事者が口頭弁論において主張していない主要事実は判決の基礎とすることができないものとされています。 主要事実とは,権利の発生,変更又は消滅という法律効果を定める法規の構成要件に直接該当する具体的事実をいいます。民事訴訟では,当事者が口頭弁論において主張していない主要事実は,たとえ証拠上明らかであっても,その事実の存在を認定して判決をすることはできません。冒頭の設例において,原告甲の貸金返還請求に対し,被告乙が貸金
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