新訂設問解説判決による登記
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26  第2章 判決による登記かを特に明らかにしていませんでしたが,従前から,同条にいう「判決」は,その主文において登記義務者に対し特定の登記手続をすべきことを命じた給付判決であることを要し,実体上の権利関係を確認し,又は形成するだけの判決は,これに含まれないとするのが判例及び登記実務の立場であり,また,学説の多数でもありました(大判明44.12.22民録17輯877頁,大判大15.6.23民集5巻536頁(注1),明33.9.24民刑1390民刑局長回答・先例集上185頁(注2),幾代=徳本・不登法103頁,吉野・注釈上552頁等)。法63条1項は,「登記手続をすべきことを命ずる確定判決」と規定して,この点を明確にしています。 なぜ給付判決でなければならないのかについては,既に本書19頁以下に述べたとおりです。すなわち,法63条1項の判決による登記は,当事者が共同してすべきものとされている権利に関する登記の申請について,一方の協力が得られないため,他方が一方に対し,登記手続をすべきことを命ずる確定判決を得て,これをその者の登記申請行為に代え,他方による単独申請を可能とするものですが,この点について,民執法177条1項本文は,意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決が確定したときは,その判決が確定した時に意思表示をしたものとみなすこととしていますので,その主文において登記手続をすべきことを当事者の一方に命じた判決が確定すると,その者の登記申請の意思表示が擬制され,他方による単独申請が認められることになります。逆にいえば,判決の主文において当事者の一方に登記手続をすべきことを命じたものでない場合には,たとえ当該判決の理由中から,一方の登記義務の存在が明らかであったとしても,その者の登記申請の意思表示は擬制されませんので,法63条1項の確定判決には該当しません。 例えば,不動産を買ったけれども,売主が登記申請に応じないので,判決をもらって登記をしようという場合には,その判決は,「被告は,原告対し,別紙物件目録記載の不動産について令和○年○月○日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」という登記手続をすべきことを命じた給付判決でなければなりません。設問のように,係争不動産について所有権確認の訴えを提起し,「原告の所有であることを確認する。」との判決を得たとしても,その判決は実体上の権利関係の存在を確認したのみであって,被告に対し所有権移転登記手続をすべきことを命じたものではありませんので,この判決

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