新訂設問解説判決による登記
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をもって,原告が単独で所有権移転の登記の申請をすることはできません。また,仮に,「被告は,原告に対し,所有権移転登記手続をすべき義務があることを確認する。」との判決があったとしても,単に被告の登記義務の存在を確認したのみで,被告に登記手続をすべきことを命じたものではありませんので,この判決も法63条1項の判決には該当しません。 次に,給付判決であっても,登記手続そのものではなく,特定不動産の譲渡を命じているにすぎないものは,法63条1項の確定判決には該当しません。例えば,設問のように,離婚判決の主文中に,離婚に伴う財産分与として特定の不動産の分与を命じたものがあっても,それだけでは登記手続をすべきことを命じたものとはいえず,これに加えて,「被告は,原告に対し,前項の財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。」との1項がない限り,原告は,財産分与による所有権取得の登記を単独で申請することはできません。登記先例は,「被告は原告より金千円を受領し該不動産を原告に売り戻すべし」との判決が確定し,原告において金千円を供託した場合でも,当該判決は主文で相手方に登記申請をすべき旨を命じたものではないから,登記権利者のみで所有権移転の登記を申請することはできないとしています(前掲明33.9.24民刑1390回答)。また,単に「所有権移転登記手続に必要な書類を交付する」旨が記載されているにすぎない和解調書は,登記義務者の登記申請の意思表示を欠き,法63条1項の確定判決には該当しないものというべきです(昭56.9.8民三5483民事局第三課長回答・先例集追Ⅵ992頁(注3))。(注1) 大判大15.6.23民集5巻536頁 「登記権利者及登記義務者カ連署シテ登記ヲ申請スヘキ場合ニ後者カ之ヲ肯セサル以上前者ハ後者ニ対シ意思ノ陳述ヲ為スヘキ旨ノ訴ヲ提起シ以テ登記権利者ノミニテ登記ヲ申請スルノ外アルヘカラス不動産登記法第27条ハ畢竟民事訴訟法第736条ノ一適用ニ過キサルカ故ニ所謂判決ハ意思ノ陳述ヲ為スヘキ旨ヲ命スル給付判決タルコトヲ伝フ迄モ無シ然ルニ保存登記ハ元来権利者ノミニテ之ヲ申請スルヲ得ル性質ノモノナルト共ニ其ノ権利者ナルコトハ当該官吏ニ於テ比較的確実ニ之ヲ認メ得ルカ如キ方法ニ依リ之ヲ証明スヘキ必要アルハ勿論ナリ不動産登記法第105条第106条各号ノ規定ハ此ノ法意ニ出ルモノニ外ナラス従ヒテ同号中ノ所謂判決ハ所有権確認ノソレノミナラス原告ノ所有権者タルコトヲ肯定シ以テ登記義務者タル被告ニ対シ登記ヲ為スヘキコトヲ命スル給付判決ノ如キモ亦之ヲ包含スト解スルヲ相当トスル」第1 法63条1項の「確定判決」の意義  27

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