新訂設問解説判決による登記
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文において(本項末尾の主文例参照),目的不動産が特定され,当事者(登記権利者及び登記義務者)の氏名又は名称及び住所,登記の目的,登記原因及びその日付のほか,当該登記の申請に必要な事項(法18条,令3条。以下「申請情報」という。)が個別具体的に明示されていることが必要であるというべきです(青山・一問一答86頁〔大内俊身〕,林久「判決による登記」不動産登記制度と実務上の諸問題上320頁,小池信行「判決による登記」講座総論Ⅲ75頁,執行文講義案174頁等)。 登記先例は,①「被告は,原告又は原告の指定する者に対し,所有権移転登記手続をする」旨の和解調書につき,債務者の給付義務の内容が個別的かつ具体的に表示されていないから,意思の陳述を擬制する余地はなく,原告又はその指定を受けた者であっても,単独で所有権移転の登記を申請することはできないとし(昭33.2.13民甲206民事局長心得回答・先例集追Ⅱ226頁(注1)),また,②「甲は,乙所有の不動産を取得し,甲が第三者に転売した場合には,乙はその第三者へ所有権移転登記をする」旨の調停調書につき,具体的に甲への所有権移転登記手続が明示されていないから,乙が直接甲に対して所有権移転登記手続をする旨の更正決定を得ない限り,甲が自己への所有権移転の登記を単独で申請することはできないとしています(昭34.9.9民三807民事局第三課長心得回答・先例集追Ⅱ530頁(注2))。 申請情報及び登記事項である「登記原因及びその日付」(令3条6号,法59条3号)についても,判決の主文で明示にされていることが必要です。ここにいう「登記原因」とは,登記の原因となる事実又は法律行為をいい(法5条2項),所有権の移転であれば,登記原因は,相続,時効取得,売買,贈与,交換等であり,その日付は,登記原因たる事実が発生し,又は法律行為の効力が生じた日です。登記原因及びその日付が登記申請情報及び登記事項とされているのは,登記される権利関係を特定し,権利変動の過程,態様を正確に公示するためのものですので,判決の主文においてこれが明示されていることが相当であるというべきです。 この点につき,大審院判例の中には,登記義務の履行を命ずる判決において判決主文に登記原因の日付が明記されていない場合でも,その判決全体に徴し,登記原因の年月日を知ることができれば足りるとするものがあり(大第1 法63条1項の「確定判決」の意義  29

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