新訂設問解説判決による登記
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30  第2章 判決による登記判昭4.1.28法律新聞2988号12頁,大判昭4.5.22法律新報186号15頁),最高裁判所の判例にも,売買による所有権移転登記手続を命じる場合には,その売買の日付は必ずしも主文に表示する必要はなく,理由中にこれが明示されていれば足りるとしたものがあります(最三小判昭32.9.17民集11巻9号1555頁(注3))。しかし,これらはいわば救済判決であって,これを一般化するのは適当でないと考えられ,現在では,登記原因及びその日付を判決の主文に明示するのが裁判例の大勢と思われます。 また,登記実務上も,判決書に登記すべき権利の変動の原因の記載があればそれに従い,その記載がないときは「判決」とする例であるとする先例があります(昭29.5.8民甲938民事局長回答・先例集下2193頁(注4))。しかし,登記手続をすべきことを命ずる判決は,当事者の一方の登記申請の意思表示を擬制するにとどまり,登記原因たる権利変動の事実を当該判決によって創設するものではありませんから,上記先例は,判決書の記載(理由中の判断を含む。)から,これから明らかでない場合であっても,判決によって司法の判断が示され,一定の登記手続が命じられている以上,これを尊重すべきとの立場から,便宜的な救済措置を示したものと理解すべきです。この点に関し,平成12年1月5日民三第16号民事局第三課長回答(民月55巻4号232頁)は,抵当権の抹消登記請求を行う場合において,その主文は,「被告は,別紙物件目録記載の土地について,別紙登記目録記載の抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。」としてよいかとの照会につき,この場合には,「被告は,原告に対し,別紙目録記載の土地について,○○法務局○○出張所平成何年何月何日受付第何号抵当権設定登記の平成何年何月何日○○を原因とする抹消登記手続をせよ。」との主文が相当であるとしており,その担当官解説では,従前の「判決及び先例は,本来,主文中に明示されるべき登記原因及び登記原因日付を明示していなかった場合に,どの範囲まで許容できるかを示したものであって,これは主文中に明示することを否定する趣旨のものではなく,登記実務上も,主文中に明示されている方が望ましい」としています。 このように,登記原因及びその日付が登記申請情報及び登記事項とされている趣旨,民執法177条1項により擬制される意思表示の内容は主文において明示されるべきこと等を考慮すると,登記手続を命ずる判決の主文には,

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