1 民法上の氏2 呼称上の氏6壱の重(基本の箱) 戸籍実務を処理する上では,「氏」の勉強が最も大切なことかも知れません。人は,生まれて出生届をすると「生まれながらの氏」が与えられます。これを生来の氏といいます。その後,養子縁組をすると養親の氏になります。これを養方の氏又は縁氏といいます。婚姻すると,結婚の際に夫婦で定めた氏になります。これを婚方の氏又は婚氏といいます。それぞれの氏について,私なりに優先順位をつけるとすれば,次のような順序になり,これが,民法上の氏の変動の基本です。1番婚氏(民750条) > 2番縁氏(民810条) > 3番生来の氏(民790条) なぜこの優先順位になるのか考えてみましょう。 「生来の氏」は,原則として出生によって発生した親子関係によって定まります。 出生によって決まる生来の氏に対して,「縁氏」は,縁組をして「親子関係をつくろうとする意思が働きます。そして「婚氏」は,夫婦となる者がお互いに終生添い遂げようとする意思の働きと,また,親族図を見てもわかるように,「親等数がない」,つまり夫婦は「一心同体」になるという意味が込められています。そのため,婚氏は氏の中で一番強い氏(夫婦同氏)なのです。氏の変動イコール戸籍の変動です。ところが,人の人生はこの氏の順番どおりに動いてはくれません。この優先順位をしっかり頭に入れて,戸籍の変動を考えていきましょう。 氏について,これをゆで卵にたとえると,「民法上の氏」が卵の中身なら,「呼称上の氏」は卵の殻です。民法上の氏が民法で定められているのに対して,呼称上の氏は戸籍法で定められています。卵の中身は民法で動き,卵の殻は戸籍法で動きます。戸籍法73条の2・77条の2・107条に規定されているのが呼称上の氏です。離縁や離婚をして,民法上,縁組前や婚姻前の氏に戻っても,社会生活を営む上で,氏を変えたくない,あるいは,民法上の氏がどうであれ,やむを得ない事由で民法上の氏ではない前述の呼称上の氏にしたい場合は,表面上,希望の氏にすることができるのです。家庭裁判所の許可が必要な場合と,必要でない場合があります。壱の重(基本の箱)第1氏のはなし
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