第3版補訂 戸籍の重箱
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  「妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。」とされています277(民772条1項)。今回の事例は,まさにこの範囲内に入るため,真偽は別として,生まれてくる子は,女性が婚姻中である夫の子とされます。汗と涙の窓口対応事例のポイント事例1 ある日一人の若い男性と,その母親と思われる女性が窓口に座った。悲壮な面持ちで男性が口火を切った。A男「僕の彼女が来月出産します。僕の子どもです。でも,彼女は他の人と結婚していて,離婚すると約束していたのに,離婚しないと言い出しました。来月生まれる僕の子どもはどうなるのでしょうか。」担当者「お相手の女性は,ご主人と同居中ですか?」A男「はい。でも,家庭内別居だと言っています。」担当者「生まれてくる赤ちゃんの父親はあなただと言っておられるのですね。」A男「はい……。」 たたみ掛けるように母親が口を開いた。A男の母「うちの子は騙されたんです。結婚していることも後で知ったのですから。彼女はもういいんです。息子も彼女とはもう結婚する気はありません。でも生まれてくる子は私の可愛い孫です。息子と一緒に育てたいんです。」 母親はとうとう泣き出した。担当者「うーん……(汗)」たとえ,今離婚したとしても「離婚後300日以内の出生子は,婚姻中に懐胎したと推定される」から(民772条2項),夫の子となります。相談者は「自分の子である」と信じて疑いませんが,たとえ,女性が夫と家庭内別居の状態であったとしても,夫の子ではないとは言いきれません。戸籍は真実を公証するものである点から考え,また,相談者の心情も考え,裁判所に結論を委ねるしかありません。 子が出生後,夫から「嫡出否認の訴え」によって父子関係を否定するか,場合によっては,子の母あるいは相談者からの「親子関係不存在確認の裁判」の申立て,あるいは,実父に対する強制認知(裁判認知)の申立ても考えられます。これらの裁判の訴え(又は申立て)は,事案によって異なりますから,裁判所の窓口で相談されることをすすめることになります。以上のような方法で,子と,母の夫との父子関係を否定する裁判が確定したときは,相談者のA男が認知の届出をすることができることになるので,その認知届によって初めて,相談者A男は子の父となること真実の父

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