入法
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175政処分として行われるものです。勘違いされることが多いので,気を付けていただきたいのですが,行政法学上,退去強制処分は,直接強制ではなく即時執行(即時強制)に分類されています。直接強制とは,行政上の義務の不履行のある場合に直接義務者の身体又は財産に実力を加えて義務の履行があったのと同一の状態を実現する作用です。これに対して,即時執行(即時強制)とは,行政機関が国民(広義∴自国籍者以外の者を含む。)に対してあらかじめ行政上の義務を付加することなく,即時に国民の身体や財産に実力を加えて行政上必要な状態を実現する作用です。 このように,退去強制手続は行政処分であることから,刑罰を課された後に退去強制がなされたとしても,憲法39条後段の二重処罰の禁止(一事不再理,二重の危険の禁止)には該当しません。しかし,これらの処分には,収容という身体の拘束や退去強制(国外への強制的な追放)のように,身体の自由を制限する厳しい処分が含まれており,行政法上の即時執行(即時強制)としては厳しい処分となっていることは事実です。そのことから,入管法を退去強制手続中心の法律と解釈する異説*35も存在するようです。しかし,入管法も他の行政法と同じ体系を有しています。例えば,制度目的,それを実現するための許認可及びそのための基準,許否判断のための手続,違反行為への対応として間接強制としての罰則並びにそれとは区別された即時執行(即時強制)及びそのための手続が整備されています。 敢えて,入管法の独自性をいうのであれば,一部行政法学上においても指摘されているとおり,上陸拒否・退去命令手続及び退去強制における詳細な手続の存在を挙げるべきでしょう。これらの手続において最終結論に至るためには三審制ともいわれる手続を経なければならず,慎重のうえにも慎重を期し,過誤が生じないように,また,あらゆる事情を考慮に入れて外国人の権利・利益が損なわれないような判断がなされる構造になっています。その結果,少なくとも,一定の不利益処分案件が行政機関ではあっても通常の行政組織から独立した機関によって行われる準司法的手続である行政審判手続の制度趣旨と類似している点,及び,入国審査官の審1 退去強制のあらまし(退去強制対象者)

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