第3版 これだけは知っておきたい 公用文の書き方・用字用語例集
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250 北海道に古くから住んでいるアイヌ民族は、独自の生活様式や伝統文化を育んできたが、松前藩の過酷な支配や明治政府の同化政策等により生活の基盤や独自の文化であるアイヌ語の使用禁止などいわれのない差別や偏見を受けてきた。最近でも、2021(令和3)年3月12日放送のテレビ番組で、アイヌの女性をテーマにしたドキュメンタリー作品の紹介を受け、お笑い芸人が「あ、犬」と発言するなど、今なお、アイヌ民族を傷つける差別表現が公然と語られている。 2019(令和元)年5月に施行された「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」では、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会を実現することを目的として、アイヌの人々への、アイヌであることを理由とした差別等の禁止やアイヌ政策を総合的かつ継続的に実施するための支援措置などが定められている。 「アイヌ」とは、自然の神々を意味する「カムイ」に対して「人」を意味するアイヌ語であり、「アイヌ人」又は「アイヌの人」は重複表現になる。「アイヌ古式舞踊」や「アイヌ語」など文化を表現する目的での使用は問題ない。 第二次世界大戦後、朝鮮戦争やベトナム戦争の過程で、日本に駐留する米兵と地元女性との間に生まれた子供たちは「混血児」と呼ばれ、父系血統主義を採る日本では無国籍児として教育をはじめとする市民的権利が受けられなかった。反基地・反米感情から米兵に寄り添う女性に対する社会的偏見とも相まって、混血児(あいの子)差別がでてきた。 「インディアン」の差別的な言葉は、入植したヨーロッパ人側の同化・絶滅政策などによるアメリカ先住民族に対する蔑称である。1980年代のアメリカで始まった「ポリティカル・コレクスト(用語における差別・偏見をとりのぞくための言語変革運動)」(以下「PC運動」という。)の中で、インディアンは「ネイティブ・アメリカン」と呼ばれるようになった。 「インディオ」はメキシコやグアテマラでは差別語とされており、中南米の先住民族は自らを「インディヘナ」(その土地の人々という意味)と自称するようになっている。 カナダ国の公的呼称では「イヌイット」と言われているが、北極圏に住む先住民族には、イヌイット語を話す先住民族「イヌイット」、ユピック語を話す先住民族「エスキモー」、アリューシャン列島に住む先住民族「アリュート民族」がいる。 外国人の略語という意味だけではなく、排外主義的なニュアンスをもった「よそ者」の意識で捉える人も多いことから、できるだけ使用しない方がよい。日本国籍を取得することを「帰化」というが、帰化人と呼ばれるのを嫌う人もいる。言い換えが望ましい。注意すべき使用の可否 望ましい表現アイヌ民族用語アイヌアイヌ人父方が○○国籍など混血児あいの子ハーフインディアンネイティブ・アメリカンインディオインディヘナエスキモーイヌイット外国人外人日本国籍を取得した人帰化人用語解説人種・民族差別等に関わる言葉 我が国が1995(平成7)年12月に加入した「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」(日本について1996年1月14日発効)では、人種・皮膚の色・民族などの違いによるあらゆる差別をなくすための必要な措置が義務付けられている。我が国における人種・民族等に関する差別は、アイヌ民族又は琉球民族、在日韓国人・朝鮮人や中国人に対する差別表現や、外国人に対する排外主義的な蔑視表現として顕在化する。 また、近年、特定の民族や国籍の人々を排斥する差別的言動がいわゆるヘイトスピーチとして社会的問題となっている。これらの言動は、マイノリティー集団を傷つけ、おとしめ、排除するための言論による暴力である。2016(平成28)年6月3日に施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」では、不当な差別的言動(ヘイトスピーチ)は許されないことを宣言するとともに、国や地方公共団体に対し、相談体制の整備や教育活動、広報啓発など必要な措置を講じるよう定められている。

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