1 自己信託315 「ある人が、左手に持った1億円を、一定の手続を踏んだ文書で自分に信託すると書いて右手に移す。すると、その1億円は、本人のものでなくなり、信託財産となる。その人の債権者は、この1億円を差し押さえることはできなくなるが、その人はこの1億円を引き続き自分や家族のために使うことができる。」 読者の方は、かかる制度をどのように思われるだろうか。これがこれから説明する、「自己信託」である。新しい信託法で導入されたもので、この「誠に都合のよい自分勝手な制度」と思われる仕組みは、アメリカではよく使われている制度だと言われている。 筆者のところにも、家族型自己信託の相談があり、中には、この自己信託が必要な人、あるいは参考文例(自己信託)-4の祖父母による孫に対する教育資金給付の信託に見られるように、これを活用するのが有用な例もある。しかし、これまでの相談例を見ると、自己信託に不可欠な「後継受託者」がいない例がほとんどであり、結局信託設定に至る事例はまれである。㈠ 自己信託について 「自己信託」とは、委託者が、自分自身を受託者として、自己の財産を他人のために(場合によっては「自己のために」)管理・処分する旨を意思表示することによって、信託を設定することをいう。 委託者の単独行為による信託設定である。 自己信託制度については、高齢者や障害者等の生活支援をはじめ、1 自己信託第1 自己信託とは
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