「特別委任事項」の漏れ 書式集や市販の委任状をそのまま利用して,何も問題が起こっていないと気付かないのですが,委任事項の中に,必要な事項が漏れているというケースを聞くことがあります。特に,特別委任事項が記載されていない委任状用紙を使っていると,それに該当する訴訟行為をしなければならなくなったとき,新たに委任状を提出しなければならなくなります。 実際に,「訴えの取下げ」(民訴55条2項2号)が委任事項欄に記載されていない委任状用紙を使っていた法律事務所で,訴えの取下書を裁判所に提出したところ,委任事項欄に「訴えの取下げ」を記載した委任状の提出を新たに求められたケースがありました。 あまり,普段は気にしないかもしれませんが,一度,事務所で使っている委任状の委任事項欄を見ることも大切かもしれません。「捨印」は必要か? 以前,「捨印が押していない委任状は無効ではないのですか?」と質問を受けたことがありました。その人は,「捨印」は何のために必要なのかを理解していないのでしょう。 「捨印」とは,記載の誤りの訂正にあたり,訂正印の捺印に代えて使用する印影で,委任者(依頼者)からすると,相手に書類の記載の訂正を委ねてしまうことになるので,捨印の押印を拒否する人もいます。 実際,契約にあたって,契約書に捨印を押したばかりに,契約書の内容を変えられたという事例もないわけではないので,依頼する側からすると,むやみやたらに捨印を押したくないという人もいるでしょう。 弁護士への委任状に捨印を押すのは,慣例のようになっていますが,やはり「押したくない」という依頼者に対して,無理に捨印を求めることはできないでしょう。しかし,少なくとも,捨印を押していないから委任状が無効になる,なんてことはありません。することもあります。その点からすると,単に「委任状」となっている方が,用途は広いと思われますし,法律事務所によっては,「訴訟委任状」と「委任状」を使い分けているところもありますが,どちらが正しくてどちらが間違っているというものではないということを理解しておきましょう。291 提訴のための事前の資料収集
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