子紛
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第7 令和裁判例/219 間接強制執行抗告審取消決定に対する許可抗告  343されることを明確に拒絶する意思を表示しており,この意思は,現在における長男の真意であると認めることができるから,現時点において,長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる相手方の行為を具体的に想定することは困難というべきである。そうすると,本件審判を債務名義とする間接強制決定により相手方に長男の引渡しを強制することは,過酷な執行として許されないというべきであり,このような決定を求める本件申立ては,権利の濫用に当たる。 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 家庭裁判所の審判により子の引渡しを命ぜられた者は,子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ,子の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ,合理的に必要と考えられる行為を行って,子の引渡しを実現しなければならないものであり,このことは,子が引き渡されることを望まない場合であっても異ならない。したがって,子の引渡しを命ずる審判がされた場合,当該子が債権者に引き渡されることを拒絶する意思を表明していることは,直ちに当該審判を債務名義とする間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではないと解される(最高裁平成30年(許)第13号同31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁[裁判例204]参照)。 そうすると,長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する意思を表明したことは,直ちに本件申立てに基づいて間接強制決定をすることを妨げる理由となるものではなく,本件において,ほかにこれを妨げる理由となる事情は見当たらない。原審は,上記意思が現在における長男の真意であると認められ,長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる相手方の行為を具体的に想定することが困難であるとして,本件申立てが権利の濫用に当たるというが,本件審判の確定から約2か月の間に2回にわたり長男が抗告人に引き渡されることを拒絶する言動をしたにとどまる本件の事実関係の下においては,そのようにいうことはできない。したがって,本件申立てが権利の濫用に当たるとした原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法がある。 5 以上のとおり,原審の上記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件申立てが間接強制決定をするための要件を満たさない旨の相手方の上記主張に理由がないことも明らかであり,本件申立てに基づき間接強制決定をすべきものとした原々審の判断は正

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