子紛
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344  第2章 子引渡裁判例の全容当であるから,原々決定に対する相手方の抗告を棄却することとする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官宇賀克也の補足意見がある。 裁判官宇賀克也の補足意見は,次のとおりである。 私は,原決定には共感できる部分があるものの,本件申立てが権利の濫用に当たるとまでいうことには躊躇せざるを得ないと考えるものであり,その理由について意見を述べておきたい。 1 記録によれば,本件において,相手方が長男の抗告人への引渡しに協力する姿勢が見られ,相手方が長男に対して抗告人への引渡しを拒否するよう殊更に働きかけている様子もうかがわれない。他方で,長男の言動に照らすと,長男は抗告人に引き渡されることを明確に拒絶する意思を表示していることは,原決定の認定するとおりである。 2 子の引渡しを命ずる審判を債務名義とする間接強制の申立てを権利の濫用に当たるとして却下した最高裁平成30年(許)第13号同31年4月26日第三小法廷決定・裁判集民事261号247頁[裁判例204]と本件との間には,前者では,①間接強制の申立てに先立って引渡執行が行われた際,子が母に引き渡されることを拒絶し執行不能となったこと,②母が父を拘束者としてした人身保護請求の審問期日において,子が母に引き渡されることを拒絶する意思を明確に示し,請求が棄却されたことという事情があり,公的機関により,子の拒絶意思の明確性が確認されていたのに対し,本件では,そのような事情はないという相違がある。しかし,引渡執行の申立ても人身保護請求も監護権を有する債権者のイニシアティブで行われるものであり,債務者のイニシアティブで行うことはできないことに照らせば,公的機関により子の拒絶意思の明確性が確認されていることが間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとされるための条件となるわけではないと考えられる。 他方,民事執行法が,効率的かつ迅速な手続運営を図るため,裁判機関(権利確定機関)と執行機関(権利実現機関)を分離し,執行機関は原則として請求権の存在等の実体法上の問題については審査せずに執行を行い,実体法上の問題については,請求異議の訴えにより審理する仕組みを設けていること,そのため,間接強制手続においては子の意見聴取や家庭裁判所調査官の調査は予定されていないことに照らすと,間接強制の申立てが権利の濫用となるためには,債務者として引渡しのためにできる限りの努力を行うことは必要であると考えられる。 3 本件においては,相手方には,長男の抗告人への引渡しに協力する姿勢が見られるものの,長男の抗告人に対する強固な忌避感情を取り除く努力が十分で

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