子紛
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を引用した。 もっとも,前記後半部分において,物でなくても給付の請求が可能であると理由づけしていたことについては,学説から,子を物と同一視するもので妥当でないとの批判があったため,その後判例は,これを親権行使の妨害を排除する請求権だと性格づけるに至った。すなわち,例えば大判大10・10・29[裁判例5]は,引渡しなる観念は必ずしも物の占有の移転を意味するものではなく,幼児のごときは引渡しの目的となり得るものであることは当院判例(上記大判大7・3・30[裁判例4]を引用)の趣旨の存するところだとし,本件被上告人である父の請求は同人がその幼年の子たるAに対する監護教育権に基づきその行使の妨害を排除するため,上告人に対しAの引渡しを求めるものなるが故に,所論のごとくAを物体視したる請求ではなく,またもとより法律上,物として観察するものではないと判示した。そして,当時13歳のAが親権者の意思に反して上告人方に居住し,また上告人において親権者の意思に反してこれを認容するという事実は,父の親権行使を妨害すること自明であり,前記事実が幼者の弁別力の有無又はその自由意思によるものか否かにかかわらず,親権者はその親権行使の妨害を除去する手段として,これに対しAの引渡しを求める権利を有するものとした。 自由意思との関係に関しては後述するとして,少なくとも子の引渡請求権は親権行使の妨害排除請求権であるとの性質決定が,既に戦前から言及されていたのである。⑵ 戦後の判例 このように,幼児の引渡請求訴訟は,幼児の引渡しを求めるという形式を取っていても,その訴訟物は親権行使の妨害排除請求権にほかならないという性質決定は,既に戦前から萌芽が見られたが,それが戦後更に一層明確化された。 最判昭35・3・15[裁判例21]は,幼児が3歳に満たない頃から第三者のもとで養育されているというだけでは,当該幼児は自由意思に基づいて同所に居住しているとはいえないとしつつ,そのようないわゆる幼児引渡請求は,幼児に対しその親権を行使するにつきその妨害の排除を求める訴えであるから,これを認容する判決は憲法22条所定の居住移転の自由と何ら関係はない350  第3章 子引渡裁判例の概観と実務的課題

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