子紛
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第1 子引渡請求民事訴訟  3512 引渡請求権と自由意思との関係として,親権に基づく妨害排除請求であることを明言した。 最判昭38・9・17[裁判例25]は,いわゆる幼児引渡請求は幼児に対し親権を行使するにつきその妨害を排除する訴えであるから,これを認容する判決は幼児を親権者の支配下に入ることを強制し得るものではなく,憲法13条所定の個人の尊重とも関係がなく,旧民事訴訟法730条(現在の民執法169条)の動産引渡請求権の執行方法によるべきと判示しているわけではなく,そのような強制執行があったわけでもないとして,子引渡請求がいわゆる引渡請求権の行使でないことを明確にした。 最判昭45・5・22[裁判例34]は,子が自分の自由意思に基づいて非親権者らのもとにいるなど特段の事情のない限り,親権者は監護養育の職分を完遂するため子の引渡請求権を有するとして,前記最判昭35・3・15[裁判例21]を引用した。 その後の下級審裁判例も,名古屋地岡崎支判昭45・7・20[裁判例38],千葉地判昭57・6・14[裁判例85]などがこれに続き,最判昭59・9・28[裁判例94]は,弟夫婦に子の監護を委託した実父母からの子引渡請求に対して,弟夫婦が実父母は子の監護養育に要した費用を不当に利得しているので,その返還義務があり,子の引渡義務と前記不当利得返還義務とは同時履行の関係があるとして子の引渡しを拒んだ事案において,幼児引渡請求は幼児に対し親権を行使するにつきその妨害の排除を求める訴えであって,前記幼児引渡義務はその性質上,前記不当利得返還義務と同時履行の関係に立つものではないから,前記同時履行の抗弁権は主張自体失当であるとして,妨害排除請求ととらえる考え方が定着した。 そうすると,必然的に次に検討する子の自由意思との関係が問題となってくる。⑴ 戦前の判例 前述したように,子の引渡請求が親権行使の妨害排除請求だとすれば,子の自由意思がある場合でもそれが可能かという問題がある。子の引渡請求を妨害排除請求ととらえれば,子が自らの意思で監護者のもとにとどまってい

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