子紛
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第2版 はしがき  i 本書の初版が上梓されたのが平成27(2015)年1月であるから,その後8年が経過した。子の奪い合い紛争に関する公刊物に登載された全裁判例を網羅する本書は,幸い多くの読者を得て,調停や審判・訴訟等に一定の影響を与え,実務の充実化と進展に寄与しているものと評価された。 ところが,その後の8年の経過の中で,本書の関連規定に関する重要部分である,「民事執行法及び国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の一部を改正する法律」(令和元年法律2号)が令和2(2020)年4月1日から施行され,国内の子の引渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の明確化が図られた。すなわち,①国内の子の引渡しの強制執行は,執行裁判所が決定により執行官に子の引渡しを実施させる直接的な強制執行の方法と,義務の履行まで一定の金員の支払を命ずる間接強制の方法のいずれかの方法によるものとし,②国際的な子の返還に関する強制執行についても国内の規律と同内容のものとし,間接強制前置主義を採用せず,子と債務者の同時存在の原則も不要のものとするなど重要な改正が行われた。それと同時に,当然のことながら,本書の初版上梓後に,ハーグ条約実施法に関する国際事件をはじめとして国内事件を含め,公刊物に登載された裁判例は40件の累積をみ,総数219件の裁判例が出現するに至っている。 そこで,第2版では,ハーグ条約実施法の内容やそれに基づく国際事件や国内事件を網羅的に紹介し解説する必要が生じた。親権者や非親権者等の子の奪い合い紛争は,最近ますます熾烈を極めており,予断を許さない。本書の解説では,それらの動きを注意深く見極めながら,「子の利益」とは何かの把握の具体化と理論化を試みたものである。本書によって問題点の本質が把握されるはずであるから,初版と同様,多くの読者を得て,実務と理論の進化・発展に貢献することができれば幸いである。第2版 はしがき

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