子紛
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はしがき  iii 本書は,明治民法時代から今日までの子の奪い合い紛争に関する全ての公開裁判例を年代順に取り上げ,紹介して,その動向を探り,今後の実務運用の指針を探ろうとする試みであり,併せて新しく発効した国境を越えた子の奪い合い紛争における子返還請求にかかるハーグ条約及びその実施法の実務的課題を検討するものである。 子の引渡請求の裁判手続ないし裁判管轄(守備範囲・棲み分け)に関しては,これまで大別して,①親権(監護権)の妨害排除請求権の行使としての子の引渡請求の民事訴訟,②子の引渡しを求める人身保護請求訴訟,③親権者指定変更審判等の付随処分あるいは子の監護に関する処分としての子の引渡し審判の3類型が認められ,年代的にはほぼその順序で排他的又は併行的に採用されてきた。すなわち,これまでの179件に及ぶ全公開裁判例が活用されてきた大きな動向は,民事訴訟→人身保護請求→家事審判であり,その流れの変化の特色を一言でいえば,子の引渡紛争の解決基準について,「子の利益」について権利概念を軸にして形式的にその存否を判断するという傾向から,「子の利益」を人間関係諸科学の知見を借りながらあくまで実質的に判断する傾向に変わってきている,ということである。そうだとすれば,それは,家庭裁判所の人的・物的機構の更なる充実を図ることによって,「子の利益」を実質的に確保する必要が今後の課題であるということを意味する。言葉をかえていえば,それは大きくは訴訟から非訟への流れであるといってもよい。それは,決して家庭裁判所の地方裁判所化政策とは相いれない,むしろそれとは逆の方向への志向であるということである。今こそ新しい家庭裁判所概念の再構築が迫られており,それが成功するかどうかは「子の親権・監護権」「子引渡返還」「面会交流」等の子の監護紛争において,実質的に「子の利益」を確保することができるかどうかにかかっている。 その意味で,本書は,同様の問題意識から世に問うた拙著『裁判例からみた面会交流調停・審判の実務』(日本加除出版,2013)の姉妹編である。あくまで「子のため」「子ども中心」の子引渡しであり面会交流でなければならなはしがき

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