2 第1編 借地契約における信頼関係の破壊民法612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)第1項 「賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し,又は賃借物を転貸することができない。」第2項 「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。ただし,その無断転貸が,その当事者間の信頼関係を破壊するに至らないものである場合には,この限りではない。」第3項 「前項の場合において,賃貸人からの解除が認められない場合には,第1項の適法な転貸借等がなされたものとみなす。」 第2項ただし書では,賃借人が抗弁として,信頼関係の破壊に至っていない特段の事情を主張立証することになる。 また,第3項の無断転貸等を理由とする解除が認められない場合の法律関係については,適法な賃貸借等がなされた場合の法律関係と同様に扱うことを提言している(詳解債権法改正の基本方針Ⅳ各種の契約(1)291頁参照)。 この点に関し,転貸等が背信行為に当たらず,賃貸人の解除が許されない場合のその後の法律関係については,見解が分かれていたが(田尾桃二 不動産法体系Ⅲ 借地・借家536頁参照),最高裁(昭和39年6月30日第三小法廷判決・民集18巻5号991頁〈裁判例33〉)は, 「原判決(引用の第1審判決)は,Aが賃借した本件土地に建築されたA名義の本件建物(内部関係ではAと被上告人の共有)に,被上告人とAは事実上の夫婦として同棲し,協働して鮨屋を経営していたが,A死亡後,被上告人はAの相続人らから建物とともに借地権の譲渡を受け,引きつづき本件土地を使用し,本件建物で鮨屋営業を継続しており,賃貸人である上告人も,被上告人が本件建物にAと同棲して事実上の夫婦として生活していたことを了知していた旨の事実を確定の上,このような場合は,法律上借地権の譲渡があったにせよ,事実上は従来の借地関係の継続であって,右借地権の譲渡をもって土地賃貸人との間の信頼関係を破壊するものとはいえないのであるから,上告人は,右譲渡を承諾しないことを理由として,本件借地契約を解除することは許されず,従ってまた譲受人である被上告人は,上告人の承諾がなくても,これがあったと同様に,借地権の譲受を上告人に対抗でき,被上告人の本件土地の占有を不法占拠とすることはできない,としているのである。右の原審判断は,基礎としている事実認定をも含めて,これを肯認することができる。すなわち,右認定事実のもとでは,本件借地権譲渡は,これについて賃貸人である上告人の承諾が得られなかったにせよ,従来の判例にいわゆる「賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合」に当るものと解すべく,従って上告人は民法612条2項による賃貸借の解除をすることができないものであり,また,このような場合は,上告人は,借地権譲受人である被上告人に対し,その譲受について承諾のないことを主張することが許されず,その結果として被上告人は,上告人の承諾があったと同様に,借地権の譲受をもって上告人に対抗できるものと解するのが相当であるからである。」と判示している。
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