7_借信
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74 第1編 借地契約における信頼関係の破壊名古屋高判昭和56年10月27日(‌判タ460号111頁)ないが,これまた引用にかかる原判決認定のとおり,前記調停にいたる前には控訴人Cは,あるいは3か月分,12か月分をまとめて支払う有様で,社会事情の変動に伴う地代値上の交渉も難航して,調停または訴訟によってようやく結末をみたことも1度にとどまらなかったのみか,延滞地代の取立に赴いた被控訴人側の者に対してもその取立先をあれこれと指示して速やかに取立に応じないので,結局調停申立となり,前記調停成立後も無催告契約解除の条件成就の前日しか地代を支払っていないなどの事情からすれば,控訴人Cの地代支払態度には長年にわたって誠意を欠くものがあり,事は結局調停または訴訟など公的手段によるのでなければ解決しないと被控訴人Aおよびその家族らに思い込ませてきたことが容易に推察されるのであるが,このような状況下においては,賃料は毎月月末払いとし,その遅滞6か月に達したときは無催告で契約を解除しうる旨の調停条項が適法に成立している以上,被控訴人側から控訴人らに対しさらに改めて右調停条項の趣旨を説明通告し,または延滞地代の支払催告をするなど通常の場合に妥当とされる措置がとられなかったからといって,そのことを非難することはできず,前記無催告による契約解除の効力を否定することは許されない。 また,控訴人Cにおいて右調停成立にもかかわらず,その主張のとおり地代は盆・暮2回に支払えば足りると考えていたとするならば,そのこと自体右に示した従前の態度と併せると,賃借人としての誠実性に欠けていたことから,ひいては調停条項を軽視し,事を安易に考えていたことを示すものであり,さらに控訴人ら主張のように,その賃借地の経済的価値が高く,その営業収益が多く,同営業が控訴人らにとって重要であるのであれば,何ゆえに約定による地代の月末支払をしてこなかったのか,まして6か月分をまとめて不払をした後も6日間の(契約解除の意思表示が控訴人Cに到達したのが,無催告契約解除の条件成就である6か月分不払の日より6日目であったことは当事者間に争いがない)不払を続けていたのか,通常の賃借人の態度としてはとうてい理解しがたいところである。 したがって,本件契約解除によって控訴人らがその主張のように多大な財産的損害を蒙るという結果を招来しても,所詮それはひとえに控訴人Cがその原因を作ったのであり,むしろ同控訴人こそ賃貸関係における信頼関係の維持を軽んじた者として自らその責に任ずるほかはない。 そのほか,本件賃貸借契約成立にあたり控訴人Cが被控訴人Aに権利金65万円を支払ったという当事者間に争いのない事実,あるいは控訴人C側で解除の意思表示到達前に延滞地代支払の準備をなし,あるいは右意思表示到達後即日同地代を提供し,これを拒絶されたので直ちに弁済供託したなど控訴人ら主張の事実を考慮してみても,前示のような本件契約解除にいたるまでの諸事情を総合勘案するときは,被控訴人が同契約解除の挙に出たことをもって,信義則に違背するといえないのはもとより,権利の濫用と目することもできない。」裁判例105賃料の遅滞(約4か月分)と信頼関係の破壊 「右引用にかかる認定事実に徴して,被控訴人の賃料減額方の申入についてその法律的意味を考えるに,第1次的には賃料引下げの希望を表明して,その目的達成に必要なる控訴人側の

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