意思表示を獲得するための交渉申入を意味するとともに,第2次的には借地法12条に基づいて賃料減額請求権を行使したものと解される。すなわち,被控訴人が控訴人に対し賃料減額の申入をした昭和52年12月31日を始期として同日以降に発生すべき将来の賃料債務については,賃料額約定に関して契約内容変更の申込み若しくは右申込を誘因するための交渉申入を意味するとともに併せて形成権を行使して相当額に定める旨の法律効果を生ぜしめるものであり(参照最高裁判所昭和45年6月4日判決,民集24巻6号482頁),他方,昭和52年度賃料債務のうち12月30日までの間に発生した既存債務については,控訴人に対して債務の一部免除を求める旨の希望を表明し,控訴人から債務免除の意思表示を獲得するための交渉申入するという意味を有する。従って,当面の問題である昭和52年度賃料債務金5万5048円に関する限り,形成権行使としての減額請求の対象とされるのは僅かに12月31日における1日分の賃料債務(金158円相当)のみであって,その大部分を占めるはずの364日分の賃料債務(金5万4890円相当)に対してはもはや形成権を行使するに由ないものであって,この関係において被控訴人の右申入は控訴人から既存債務免除の意思表示を得たい旨の要請している以上の意味はない。しかして,被控訴人は,昭和52年12月31日限りで同年度における供用を満了しその対価にあたる年間賃料債務についても弁済期を迎えたのに履行を拒絶し,それから88日を徒過した昭和53年3月29日には控訴人から履行の催告を受けたのであるがこれに応ぜず,さらにその後34日目にあたる同年5月2日に控訴人から契約解除を受けるや同月4日に至り右債務について供託したものであるところ,被控訴人の行為を客観的に考察するならば,被控訴人は,債務者たる控訴人から総債務の半額以上にも及ぶ免除の意思表示を獲得することを目指して,控訴人に対し要請を重ねるにあたりそれが受容せられる情勢を形成すべく局面を自己の有利に展開するための攻撃防御方法として,4か月にもわたり,かたくなに債務の履行を拒絶したものである,と言わざるを得ない。かかる被控訴人の賃料債務不履行は,前記引用の認定事実を考慮に入れても著しく不誠実で債権者を脅かそうとしたものと判断されるものであって,とうてい賃貸借契約上の信頼関係を破壊しないなどとは言えない。そして,控訴人は,被控訴人に対し,3か月間近く終始一貫して債務免除の意思がない旨を表明したうえ,書面をもって相当期間内の履行を催告し,それでもなお被控訴人が翻意しなかったために,弁済期から122日後催告から34日後である昭和53年5月2日に至り解除の意思表示を告知したものであるから,その解除権行使は信義誠実の原則に従ってなされたというべきである。従って,控訴人の解除は効力を生じ,その結果本件賃貸借契約は同月2日付をもって消滅した。被控訴人の抗弁は採用できない。」更新料の不払いと信頼関係の破壊最判昭和59年4月20日(民集38巻6号610頁,裁判集民141号581頁,判時1116号41頁,判タ526号129頁,金判699号12頁,金法1073号42頁)裁判例106 「ところで,土地の賃貸借契約の存続期間の満了にあたり賃借人が賃貸人に対し更新料を支払う例が少なくないが,その更新料がいかなる性格のものであるか及びその不払が当該賃貸借契約の解除原因となりうるかどうかは,単にその更新料の支払がなくても法定更新がされたか(1)解除を肯定した事例 75第2賃料等不払い
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