7_借信
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76 第1編 借地契約における信頼関係の破壊千葉地判昭和61年10月27日(‌判時1228号110頁)どうかという事情のみならず,当該賃貸借成立後の当事者双方の事情,当該更新料の支払の合意が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量したうえ,具体的事実関係に即して判断されるべきものと解するのが相当であるところ,原審の確定した前記事実関係によれば,本件更新料の支払は,賃料の支払と同様,更新後の本件賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ,その賃貸借契約の当事者の信頼関係を維持する基盤をなしているものというべきであるから,その不払は,右基盤を失わせる著しい背信行為として本件賃貸借契約それ自体の解除原因となりうるものと解するのが相当である。したがって,これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。」裁判例107著しい低額の地代の供託と信頼関係の破壊 「(3)そこで,これを本件についてみてみるに,被告Aは,昭和45年より1坪当たり月額金90円宛の地代を今日まで15年以上にわたって供託し続けているところ,《証拠略》によれば,すでに昭和48年の時点で,右供託額は,同年度における地代家賃統制令による統制月額地代(1坪当たり金349円)の約4分の1という著しい低額であることが認められる(地代家賃統制令は,同令23条2項2号により,昭和25年7月10日以後に新築に着手された建物の敷地の地代については適用がないので,昭和38年に建築された本件建物を前示のように本件賃貸借契約の目的にとり込んで解釈する場合には,同建物の敷地部分の地代については,前記統制令の適用がないことになるから,前記被告Aの供託額と適正地代額との差額は,より一層甚だしいものとなろう。)。 以上のように,非常に長い期間にわたり,一見して「著しい低額」であると認識し得べき金額を漫然と供託し続ける被告Aの態度は,明らかに常識を欠いたものであり,賃貸借関係において要求される信義を欠いたものというべきである。もとより,この点について,原告側においても,昭和46年8月に市川簡易裁判所に対し賃料増額確認等請求調停事件を申立てたものの,何らの成果も見られないまま右申立を取下げ(《証拠略》によってこれを認める),以後増額を正当とする裁判を求める訴訟を提起する等の行為に出ていないのは,それなりの落度として非難に値しよう。しかし,このことを十分考慮に入れても,前記被告Aの供託は,その額があまりにも低額に過ぎ,適正地代額との差が極端に大き過ぎること,しかもそのような低額の金員の供託をあまりにも長期間漫然と続け過ぎてきたこと等を考えると,債務の本旨に従った賃料の支払と評価し難いものといわざるを得ず,このことと,本件建物の建築が,前記二1(二)に判示したとおり,請求原因5の(一)及び(四)の特約に違反してなされたものであること,並びに弁論の全趣旨から窺われる被告側の態度等とを総合考慮すると,原告と被告Aとの間においては,すでに賃貸借関係において要求される信頼関係が破壊されたものというほかはなく,契約解除の効力を認めるのが相当である。」

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