5人事訴訟手続⑴ 人事訴訟手続の対象76第2章 相続人の範囲に係る訴訟ア 訴訟物イ 人事訴訟手続と相続 しかし,家庭裁判所は,そもそも当事者間の合意で身分関係を変更することができる離婚及び離縁の訴え以外の人事訴訟事件の調停について,①当事者間に申立ての趣旨のとおりの審判を受けることについて合意が成立し,②当事者の双方が申立てに係る無効又は取消しの原因又は身分関係の形成若しくは存否の原因について争わない場合に,必要な事実を調査した上,上記①の合意を正当と認めるときは,合意に相当する審判をすることができる(家事法277条1項)ことになっている。 これを合意に相当する審判というが,この審判は,人事訴訟事件について,上記の要件を具備することを前提に,身分関係の形成又は存否について訴訟という厳格な手続ではなく,より簡易な手続で行うことを認めるものである。そして,合意に相当する審判は,当事者及び利害関係人から,これに対する適法な異議申立てがないか,異議の申立てを却下する審判が確定すると,確定判決と同一の効力を有することになる(家事法281条)。つまり,人事訴訟事件について,人事訴訟手続によらずに上記条件のもとに簡易な手続が認められていることになる。 人事訴訟事件は,身分関係の存否の確認又は形成を目的とする訴訟(人訴2条)であるから,その訴訟物は,身分関係の存否確認訴訟(これには存在確認訴訟と不存在確認訴訟がある。)においては一定の身分関係の存否であり,身分関係の形成訴訟においては形成請求権である。ア 相続において被相続人と相続人との間に一定の身分関係があるか否かが争われる場合がある。その典型例は,被相続人の死亡時において,戸籍上は被相続人の子とされている者,例えば,戸籍には,甲が被相続人の子とされているが,実はそうではないという場合である。このようなことは,被相続人が他人の子を自己の
元のページ ../index.html#48