第3版実務相続関係訴訟
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⑵ 人事訴訟事件の特色78第2章 相続人の範囲に係る訴訟ア 職権探知主義上記の親子関係不存在確認や認知のほかに,婚姻(民739条1項)や離婚(民763条)の無効,さらには養子縁組(民809条)や離縁(民811条)の無効等も相続人の範囲に影響することになる。オ ちなみに,民法887条2項・3項,889条2項は,代襲相続について規定しているが,代襲相続は,相続人の地位の承継ではない。代襲相続の発生原因は,被相続人の相続人であるという身分関係を有する被代襲者が被相続人よりも前(同時を含む。)に死亡するか,相続人の欠格事由に該当するか,廃除される等により相続権を失ったことである。つまり,代襲相続は,代襲者とされている者が被代襲者の子(再代襲の場合は孫)であるということが原因となるから,代襲者であるか否かの争いは,①その者の被代襲者が被相続人の相続人であるか否か,又は,②代襲者とされている者が被代襲者の子若しくは孫であるか否かについての争いということになる。カ 相続人の地位に係る身分行為の効力に関する訴訟の詳細は,後述する(後記第2参照)。ア 人事訴訟事件は,夫婦親子その他の親族等の身分関係という社会秩序に関する事項に関する訴訟であるから,真実を発見し,これに即した判断がされなければならない。これを実体的真実主義という。人事訴訟事件は,上記のとおり,親子関係等の人の身分関係という公の秩序に関わる事件であるから,原則として当事者間の合意だけで身分関係の形成又は存否を決めることは許されない(離婚の訴え・離縁の訴えについては,民法は,当事者の協議による離婚・離縁を認め(民763条,811条),当事者間の合意による処理を認めていることから,裁判上の和解・請求の放棄・認諾も認められている(人訴37条1項,44条)。後記オ参照)。それゆえ,通常の民事訴訟において妥当する,私的自治の原則から裁判に必要な事実に関する資料の収集を当事者の権能及び責任とする弁論主義は,人事訴訟に

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