第3版実務相続関係訴訟
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79イ 当事者第1 相続人の範囲に係る訴訟(概説)は適用がなく,裁判所が事実判断の基礎資料の収集について権能及び責任を負うとする職権探知主義(人訴20条)が適用される。 しかし,実際の人事訴訟の実務においては,当事者に対し主体的に主張立証をすることが求められている。また,人事訴訟においては,多くの場合,訴訟要件が問題となるが,これについても,原則として職権調査事項ではあるものの,最終的に真偽不明な場合にはいずれかが不利益を負うことになるので,この意味での証明責任は存在するといえる。 したがって,人事訴訟においても,通常の訴訟と同様に,請求原因・抗弁等が問題となり争点整理も行われることになる。イ なお,人事訴訟事件は,訴訟事件であるから,家事事件手続法別表第二事件が調停の不成立とともに当然に審判に移行し,審判されるのとは異なり,調停が不成立となれば,改めて訴訟を提起しなければならない。 人事訴訟の当事者は,通常の民事訴訟と同様に,訴えを提起する者(原告)とその相手方となる者(被告)であるが,当事者となるためには,当事者となり得る一般的な資格としての当事者能力(人訴1条,民訴28条,29条)が必要である。そのほかに訴訟物である権利関係について当事者として訴訟追行して,本案判決を求めることができる資格である当事者適格が必要である。 人事訴訟法は,当事者適格のうち,被告適格に関する一般的な規定を置いている(人訴12条)。しかし,原告適格についての一般的規定を設けていない。これは,人事訴訟のうち,確認訴訟については,原告適格は訴えの利益に依存する問題とされているため,一般的に原告適格を定めておくことは適切ではないからである(小野瀬厚・岡健太郎編著『一問一答 新しい人事訴訟制度』60頁(商事法務,2004年))。確認訴訟以外については,人事訴訟法は,個別的に原告適格を定めており(人訴41条1項,43条1項),民法も人事訴訟のうち,形成訴訟については,個別的に原告適格を定めている(民744条,747条,764条,787条等)。

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