81オ 人事訴訟事件の訴訟上の和解及び請求の放棄・認諾カ 利害関係人に対する訴訟係属の通知第1 相続人の範囲に係る訴訟(概説) これを失権的効力又は失権効という。同一の身分関係についての訴えは,1回の訴訟で全面的に解決すべきであるという趣旨である。身分関係は社会の基盤であり,身分関係の安定は公益であって,その利害関係は当事者にのみ及ぶのではないから,早期に安定させるべきであるという政策的判断に基づくものである。しかしながら,当事者が過失によらずに知ることができなかった場合には,そのために主張することができなかった事実に失権的効力は及ばず,また,原告以外の第三者については手続保障の問題があるから,第三者には,失権的効力は及ばない(小野瀬厚・岡健太郎編著『一問一答 新しい人事訴訟制度』108頁(商事法務,2004年))。 人事訴訟事件については,離婚訴訟及び離縁訴訟以外の事件について訴訟上の和解及び請求の放棄・認諾をすることができない(人訴19条,37条)。これは,身分関係が社会生活の基礎をなしており,社会秩序といえるため,実体的真実を確定する必要があるからである。この点において,通常の民事訴訟が私法上の権利義務をめぐる紛争を対象とするため,処分権主義・弁論主義を採用しているのと異なるといえる。 なお,離婚事件及び離縁事件については,前記アアで説明したように,民法が当事者間の合意による処理を認め,協議離婚・協議離縁ができることとの対比から,人事訴訟法は,これらの事件についての訴訟上の和解及び請求の放棄・認諾を認めている(人訴37条,44条)。したがって,離婚訴訟及び離縁訴訟において,「原告と被告は離婚する。」等の和解条項による訴訟上の和解が成立し,これが調書に記載されると,直ちに実体法上離婚等の効果が生じ,当事者による戸籍事務管掌者への届出も報告的届出となる(人訴19条,37条,民訴267条)。 人事訴訟事件が提起されると,裁判所は,提起された訴えの利害関係人に対して訴訟が係属したことを通知することになっている(人訴28条,人訴規16条)。通知すべき利害関係人は,死後認知訴訟などの人事訴訟の結果,相続権が害される第三者である。これについては,人事訴訟規則
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