第3版実務相続関係訴訟
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88第2章 相続人の範囲に係る訴訟後,婚姻届を提出した場合,懐胎した子が婚姻成立の日から200日以前に生まれれば,嫡出子とはならないことになる。 我が国においては,内縁関係が先行し,妻が懐胎することにより婚姻届を提出するということが少なくなかった。このような場合には,婚姻後に出産したとしても,その子は,民法772条の規定によれば嫡出子にならない。しかし,これは社会的実態に合致しないとして,婚姻届を提出後,妻が出産した子は,婚姻成立の日から200日経過前に生まれたとしても,戸籍上は嫡出子として記載されるという扱いとされている。しかしながら,これは戸籍上の取扱いであり,民法772条の規定からすれば,婚姻届がされた日から200日までに生まれた子は,民法上の嫡出子にはなり得ないのである。そこで,このような子を,嫡出子であるが772条の推定を受けないという意味で「民法772条の推定を受けない嫡出子」又は略して「推定されない嫡出子」と呼んでいる。ウ 推定の及ばない嫡出子 他方,婚姻の日から200日経過した後か,婚姻解消又は取消しの日から300日以内に子が生まれた場合には,民法772条2項によれば,その子は妻が婚姻中に懐胎したものと推定されることになるが,婚姻している夫婦が長期間別居状態にあり,夫婦間において客観的に性交渉をする余地が全くない状況にある間に妻が他の男性と同居するなどして懐胎することもある。このような場合も,同条2項によれば,妻が出産した子は,形式的には,「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子」に該当することになるので,形式上,嫡出子ということになる。しかし,夫と長期間別居しており,その間に性交渉することはあり得ないという状況にあるのであれば,上記と同様に実質的に嫡出推定を働かすべきではない。そこでこのような子を「民法772条の推定を受けない嫡出子」又は「推定されない嫡出子」と呼んでいる。なお,離婚後300日以内に出生したとしても,懐胎時期についての医師の診断書を添付

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