90第2章 相続人の範囲に係る訴訟オ 生殖補助医療不存在確認の訴えを提起すればよいことになる(後記2⑴イウ参照)。 生殖補助医療により人工授精や体外受精がされた場合の親子関係については問題が多い。 判例は,母子関係については,人工授精等がされたとしても,母がその子を分娩すれば,母子関係があることになるとしている(最二小決平成19年3月23日民集61巻2号619頁)。母子関係は分娩により生じ,母の認知を要しないからである(最二小判昭和37年4月27日民集16巻7号1247頁,最二小決平成19年3月23日民集61巻2号619頁)。 妻が人工授精等によって子を出産した場合の親子(父子)関係については,上記の形式上,「推定される嫡出子」に該当するが,どのように考えるべきであろうか。 人工授精には,①夫の精子だけが用いられた場合,②夫の精子だけではなく,他人の精子も混合したものが用いられた場合,③他人の精子だけが用いられた場合の3種の方法がある。①の場合には,生物学的にも父子関係があるが,②の場合には,生物学的な父子関係がない場合もあり得ることになる。③の場合には,生物学的な父子関係はない。そうなると,②の場合で,DNA鑑定の結果,生物学的な父子関係がないことが判明したとき及び③の場合で,出生した子が嫡出推定を受けるときに,父子関係を争うには,嫡出否認の訴えによるべきか,親子関係不存在確認の訴えによるべきかが問題となる。 生殖補助医療を受ける場合,夫婦で人工授精等をすることについて合意していることが前提となる。そうすると,夫は,上記②の場合には,人工授精等をする段階で,生物学的な父子関係がないという事態が生じることも予想し,③の場合には,そもそも生物学的な父子関係がないことを承知で人工授精等をしたことになる。したがって,②及び③の場合であっても,夫から父子関係を争うことを認めるべきではないであろう。結局,上記①ないし③とも形式上,嫡出否認の訴えの対象となるが,これは認めるべきではないと考える。 この点を判示した最高裁判所の裁判例はないが,妻が夫の同意なしに
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