91第2 相続人の地位に係る身分行為の効力に関する訴訟第三者の精子を用いた人工授精によって出産した子について,夫がその嫡出性を承認したとは認められないとして,夫からの嫡出否認の訴えを認めた裁判例として大阪地判平成10年12月18日(家月51巻9号71頁)がある。 なお,最高裁判所の判例として,①男性(夫)死亡後にその保存精子を用いた人工生殖によって生まれた子と男性との親子関係の形成は認められないとしたもの(最二小判平成18年9月4日民集60巻7号2563頁),②夫と妻の精子と卵子を受精させて作った受精卵を他人の子宮に移植させて懐胎・出産させた子について,現行民法の解釈としては,出産した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず,卵子を提供した女性との母子関係の成立を認めることはできないとしたもの(最二小決平成19年3月23日民集61巻2号619頁)がある。⑶ 推定される嫡出子と嫡出否認の訴え 「推定される嫡出子」であっても,生物学的な父子関係がない場合がある。このような場合には,夫は,子との父子関係を否定できなければならない。しかしながら,いつまでも親子関係を争えるということになると,子の地位が不安定となる。そこで,子の身分関係を早期に安定させるために,嫡出否認の訴えに出訴期間が設けられている。その期間は,妻が子を出産したことを知った後,1年間である(民777条)。しかも,夫が子の出生後,自分と妻との間の子であること,つまり,嫡出であることを承認したら,嫡出を否認することはできない(民776条)。ただし,夫が出生した子を嫡出子として出生の届出をしたとしても,これで嫡出性を承認したことにはならない(反対説がある。)。 ところで,嫡出否認の訴えについては,確認訴訟説と形成訴訟説があるが,形成訴訟とするのが判例・多数説である。つまり,嫡出否認は,裁判上行使しなければならない形成権の行使ということになる。
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