虐法
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7第1 子ども虐待対応の考え方もあります。 ここで,筆者が子ども福祉に関わるようになってから違和感を持ち続けていることについて触れます。 児福法では,当たり前ですが,子どもの養育に関しては,ほとんどの場面で「児童を現に監護する者」(児福法6条)と定義されている「保護者」が主体となっています。もっとも,「保護者」は必ずしも「親権者」(親権を行う者との関係についてはコラム「親権者と親権を行う者」(327頁)参照。ここでは,一般に使われている「親権者」とします。)ではありません。一方で,時折「親権者」が条文に顔を出します。例えば,「親権者」の意に反するときには児福法27条1項3号措置が採れなかったり(児福法27条4項),一時保護の継続が「親権者」の意に反するときには2か月ごとに家庭裁判所の承認を得なければならなかったりします(児福法33条5項)。 ところが,実務においては,「保護者」が当然「親権者」として,又は「父又は母」として使われている場面によく出会います。児童相談所の職員も,「保護者」というと「親権者」を想定して話しているときもあり,筆者が児童相談所に勤務して10年以上が経ってもいまだに,話が今一つかみ合わないと思うことがしばしばあります。 また,子ども虐待対応において,子どもを家庭から強制的に分離するための法的手段として,児福法28条,親権停止及び親権喪失がありますが,これらの,子どもの権利利益を害する主体となっているのはそれぞれ「保護者」,「親権者」,「親権者」なので統一感が見えません。そして,児福法28条の場合,子どもに虐待等をなして,子どもを監護させることが著しく子どもの福祉を害するとされる主体は「保護者」ですが,「保護者」とは別に「親権者」がいるときは,まず「親権者」に引き渡すべきであり,「親権者」に引き渡すのが不適当なときに家庭裁判所の承認を得て当該措置を採ることとされています。つまり,「保護者」が虐待等をして,子どもを養育させられないときは,「親権者」が虐待をしていなくても児福法28条の申立てはできます。そうかといって「親権者」にも子どもを養育させるのが不適当でない限りは,「親権者」に返すということになりますが,それならば,「親権者」が虐待(この「虐待」は,児童虐待防止法上の「児童虐待」とまったく同一というわけではありません。)をなしたけれど,「保護者」が虐待をしていないときは,児福法28条ではなくて,親権停止や親権喪失を検討することになります。 この違和感は,筆者だけかもしれませんが,子ども虐待に対応する法制度を

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