お墓にまつわる法律実務
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Q1.相続と祭祀承継1631)  梶村太市『裁判例からみた祭祀承継の審判・訴訟の実務』(日本加除出版、2015)と指定しない限り、相続人らが協議して定めた者を祭祀承継者であると認めることはできないとするものもありますが(広島高判平成12年8月25日家月53巻10号106頁)、民法は関係者の合意によって承継者を定めることを排除した趣旨とは解されないとしてこれを認める裁判例もあります(東京地判昭和62年4月22日判タ654号187頁)。 実際上は多くは関係者間の合意・協議によって決められているのが実情であると思われます。⑸ 祭祀主宰者は一人に限られるか 祭祀主宰者は、民法897条の趣旨などから本来一人であるべきものと考えられています。 しかし、特段の事情がある場合に、祭祀財産を二人に分けて承継させた裁判例や、二人を共同の承継者にすることを認めた裁判例があります。 代表的な判例としては、「特段の事情」を認めた上で、祭祀財産のうち、墳墓と、系譜・祭具とを分けて承継させた事例(東京家審昭和42年10月12日家月20巻6号55頁)、2か所の墓地使用権について別々の承継者を定めた判例(東京家審昭和49年2月26日家月26巻12号66頁)、二つの家の墓として代々祭祀を行ってきた墓地の承継者として共同承継者として二人を指定した判例(仙台家審昭和54年12月25日家月32巻8号98頁)が挙げられます1)。 また、お墓は仏教の寺院墓地にあるが、葬儀は自分の信仰する仏教以外の宗教の儀式で行いたいとして、遺言で葬儀を行う喪主と祭祀主宰者を別々に指定したという例があります。4 祭祀承継者の地位 祭祀財産の承継には、相続の場合と違って承認や放棄の制度がないことから、承継の放棄や辞退をすることはできません。しかし、それらを承継したからといって、祭祀主宰者が祭祀を主宰する義務を負うわけではありません(東京高決昭和28年9月4日判時14号16頁)。

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