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4 性同一性障害の人々の悩みとその法的問題41)Obergefell v. Hodges, 576 U.S._ (2015).42)棚村政行「性同一性障害をめぐる法的状況と課題」ジュリ1364号2頁(2008)参照。ないとするミシガン,オハイオ,テネシー,ケンタッキー4州の制定法につき,連邦憲法修正第14条に違反するとの判決を下した。9人の裁判官のうち5人が違憲判断に賛成し,4人が反対するという僅差での勝利であった。法廷意見(多数意見)は,同性愛の人々の差別の歴史を振り返りながら,ようやく20世紀後半から,同性婚や同性愛者の人権を認める動きが出てきたことに触れ,同性カップルから婚姻する権利を奪うことは許されないと説いた。つまり,多数意見を書いたケネディー裁判官は,愛情,貞節,献身,犠牲,家族の最高の理念を具現する結合で,婚姻ほどに深遠な結合はなく,同性カップルに婚姻する権利を否定することは,連邦憲法から見ても許されないと判示した41)。 性同一性障害とは,体の性と心の性の不一致に悩む精神的な疾患で,厚生労働省では,「生物学的性別と性別に対する自己意識が一致しない状態」と定義している。国内では,正式な数字はつかめていないが,数千から数万人はいると言われており42),日本精神神経学会などの調査では,国内での性同一性障害の診断や治療を行う18施設への受診者数は,1万4889人おり,そのうちの65%が体は女性だが男性になりたいというFTMであるという。例えば,新潟県に住むAさん(戸籍上は女性・51歳)は,幼いころから女性であることに違和感を覚えてきた。中学校時代もスカートがはけず,特別にズボンで登校させてもらっていた。20歳を過ぎて就職し,友人の紹介で夫と出会い,結婚して,今は22歳の長男と19歳の長女がいる。40歳のときある女性に恋をして,夫に「男になりたい」と告げたところ,夫はあきれてまともな返答もなかった。数年間は会話もなく食事も別々で,46歳で乳房を切除し,その2年後男性ホルモンの治療も受け,秋には下半身の手術も予定している。Aさんは,見た目はどんどん男に近づいていくが,戸籍は相変わらず女性で序章 総 論14

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