ハラ対
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イ 刑事責任 Y1がXに対し無理やりキスをし,胸を触ったことは,有形力を行使したわいせつな行為であり,刑法第176条の強制わいせつ罪に該当します。また,Y1の行為を原因としてPTSDを発症していることから,刑法第181条1項の強制わいせつ致傷罪にも該当し得ます。 したがって,Xは,Y1に対し,強制わいせつ罪又は強制わいせつ致傷罪を告訴事実とする刑事告訴を行うことが考えられます。② Y2に対する請求ア 使用者責任(民法第715条) 使用者は,被用者が「事業の執行について」第三者に加えた損害について責任を負い,これを使用者責任といいます。 「事業の執行について」なされたか否かは,裁判例では,一般に,ア事業執行とみられる行為と従業員の不法行為との時間的・場所的な関連性や,イ従業員の不法行為が生じた原因と事業執行との関連性などにより判断されています。 本件の行為のうちⅰからⅲは職場内又は取引先の接待中になされたものですので,「事業の執行について」なされたものといえます。他方で,ⅳについては,取引先との接待終了後にY1と2人でカラオケに行ったことが「事業の執行について」に該当するかどうか問題となります。これについては,Y1がXに対し,接待時の対応について注意するとして,業務に関連させて上司としての地位を利用して行われたものですので,やはり事業執行中になされたというべきです。 したがって,Y1のセクハラ行為について違法性が認められる場合は,Y2は使用者責任を負い,Xは,Y2に対し,Y1の上記行為による損害賠償を請求することが考えられます。イ 職場環境配慮義務違反による債務不履行責任(民法第415条)・不法行為責任(民法第709条) 使用者は,従業員に対し,労働契約上の付随義務として,信義則上働きやすい職場環境を保つよう配慮すべき義務(職場環境配慮義務)を負って第1 職場におけるハラスメントの具体的相談事例と法的責任43

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