5 信託特有の考え方や特徴12 第1章 民事信託の基礎17)賃貸借契約における賃貸人と賃借人との間にも信頼関係が必要とされているが,信託が前提としている信認関係とは,このような信頼関係よりも高度なものと考えられる。18)信託法147条の反対解釈から,信託契約において,委託者が死亡した場合には,原則として,委託者の地位は相続されることになるが,信託条項において,委託者の死亡によりその権利は消滅し,委託者の地位は相続されないと定めることが多い。⑴ はじめに 信託には特有の考え方や特徴がある。民法を前提として考えると,信託には分かりにくい点が多々ある。しかし,信託とは,このような特有の考え方や特徴を持つ制度であると,そのまま理解して欲しい。 以下,信託特有の考え方や特徴を列挙する。⑵ 委託者と受託者との間及び受託者と受益者との間の信認関係 信託とは信じて託すことである。信託制度が認められる根本には,委託者と受託者及び受託者と受益者との間に,信認関係があることが前提となっている。当事者間の信認関係を前提としている点は,他の法律行為とは異なっている特徴である。17)⑶ 委託者が死亡しても信託は終了するとは限らないこと 信託では委託者と受託者の間に高度の信頼関係があることを前提としている。そのため,信託を設定した当事者である委託者が死亡した場合に信託契約は終了するのではないかと考えられるかもしれない。例えば,委任においては,委任者または受任者の死亡により,委任は終了する(民法653条1号)。 しかし,信託では,信託契約により,委託者の死亡により信託を終了させることとしていない場合には,委託者が死亡したとしても,信託契約は終了しない。委託者は死亡したが委託者の地位が相続されることなく,18)委託者の地位に立つ者が存在しなくなったとしても,信託自体は存続することになる。この場合には,受託者及び受益者だけで信託の主体は構成されることになり,受託者は,受益者に対し,善管注意義務や忠実義務などの各種義務を負うことになる。 当初の信託行為の主体である委託者が死亡し,委託者が存在しなくなった
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