5_信託書
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6 信託でなければできないこと(信託の独自的機能)20) また,委託者は,受益権の帰属も決めることができ,特定の受益者が死亡した際に,当該受益権をその者の相続人に取得させることも,また,相続人以外の者に取得させることもできる。 このように,信託においては,委託者は受益権の帰趨を自由に決めることができるのである。 これらの特徴は,信託に柔軟性があることを表している。⑴ 信託の転換機能 先ほど,信託は形式的な権利帰属者と実質的利益享受者が分かれているところに特徴があると述べた。信託はこのような特徴を持っていることから,次のような独自の転換機能があると分析されている。ア 権利者の属性の転換 財産管理能力が減退してきた高齢者は,財産を十分に管理することができないばかりか,財産を管理することが苦痛になってくる。そのような場合に,信託を利用することにより,高齢者に代わって,財産管理を十分に行うことができる親族に財産を管理させることができる。 これは,信託の利用により,高齢者から財産管理能力がある親族に,権利者の属性が転換されたものである。 後述の【基本事例】(高齢者の財産保護)は,主に,この信託において権利者の属性が変わることを活かしたスキームである。また,【事例4】(財産管理に不安のある元配偶者への離婚給付),【事例6】(親族の生活の安定を目的とする信託─自己信託の活用2),【事例7】(受託者に一般社団法人を活用する14  第1章 民事信託の基礎20)四宮教授は,信託独自の機能を転換機能と呼び,①権利者の属性の転換機能,②権利者の数の転換機能,③財産権享受の時間的転換機能,④財産権の性状の転換機能の4つに分類した(四宮和夫『信託法[新版]』14頁以下(有斐閣,1989))。さらに,新井教授は,四宮教授の分類に加え,別の角度から,信託独自の機能を①財産の長期的管理機能,②財産の集団的管理機能,③私益財産から公益財産への転換機能,④倒産隔離機能という4つのカテゴリーに分類している(新井誠『信託法』85頁以下(有斐閣,第4版,2014))。

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