者の遺留分に配慮しながら,後継者には共益権に相当する議決権行使の指図権を保持させることにより,後継者が安定的に会社経営を行うことを可能とする。 後述の【事例13】(事業承継─遺留分への配慮)は,主に,この信託における権利の性状が変わることを活かしたスキームである。また,【事例12】(事業承継─後継者の育成)も,主に,この信託の特徴を活かしたスキームである。⑵ 信託財産の独立性 また,信託の特徴として,信託財産は受託者の固有財産とは別個独立のものとして扱われるということは前述した(信託財産の独立性)。 この信託の特徴から,信託を利用することにより,「財産の安全地帯」21)を作ることができるといわれている。仮に,受託者が破産したとしても,信託財産は破産財団を構成することにはならない(信託法25条)。これを信託の倒産隔離機能と呼ぶ。22) 将来,自己の経済状態が悪化する可能性があることを心配して,予め,委託者が財産を信託し,倒産隔離を行うことができる。 後述の【事例5】(子どものための財産の保全─自己信託の活用1)は,主に,この信託における倒産隔離機能を活かしたスキームである。⑶ 信託の柔軟性 信託では,前述したとおり,委託者が受益権の発生,変更,消滅及び帰属を自由に定めることができる(信託の柔軟性)。 信託を利用することにより,委託者が自分の財産を後妻へ与え,後妻の死後には,後妻とは血縁関係がない委託者と先妻との間の実子に財産を与えることができる。民法では,後継ぎ遺贈は無効との見解が有力であるが,信託法では,受益者を連続して指定することによって後継ぎ遺贈と同じ効果を実現することができる。23)16 第1章 民事信託の基礎21)四宮・前掲注20)同頁22)新井・前掲注20)103頁23)信託法91条は,後継ぎ遺贈型受益者連続信託が有効であることを前提に,その存続期間を制限している。
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