ることになるため(民法859条1項),相談者Xの財産を子どもAが相続した場合,子どもAが相続によって取得した財産を後見人が管理することになる。 法定後見の利用は,子どもAが「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」であることが要件となり,経験不足・能力不足等であっても,これに該当しない場合には法定後見制度を利用することはできない。 また,遺言をするには遺言能力の存在が要件となるため,子どもAが「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」である場合,子どもAが遺言をすることは困難であることが多い。子どもAの相続について法定相続人がおらず,子どもAが遺言をすることができないときは,相談者Xの相続の際に子どもAが取得した財産を含めた子どもAの財産は,最終的には国庫に帰属することになる(民法959条)。⑵ 任意後見制度の利用 子どもAが「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況」(任意後見4条1項)にある場合,任意後見制度を利用することが考えられる。 しかし,任意後見制度では,法定後見制度と異なり受任者に財産管理に関する代理権を与えるだけであり,取消権はなく,本人に財産管理の権限は残存している。そのため,相談者Xから相続した財産について子どもAが不当な契約を締結してしまう余地は残されることになる。⑶ 信託制度の利用 信託制度を利用する場合,受託者が信託財産を受託者名義で管理処分することになるため,十分な判断能力を有しない者につき不当な契約をさせられること等から保護することができる。また,信託財産につき,子どもの死後の帰属を定めることもできる。 そこで,相談者Xが残す財産を第三者に管理させることにより,財産管理の煩わしさや不当な契約をさせられること等から子どもAを保護し,また,子どもAの死後に親族や社会福祉施設等に財産を取得させたいような場合等には,信託制度を利用することが考えられる。 本スキームでは,信託を活用し,主に,財産の権利者を高齢者である相談者Xから第三者に転換することにより,財産の長期的管理を実現しようとするものである。94 第4章 信託契約書の作成事例
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