108 第4章 信託契約書の作成事例 信託制度と後見制度は,財産管理のための制度である点は共通する。しかし,両制度には主に次に述べる違いがあり,互いに補完し合うよう利用されることが望ましい。 法定後見制度のうち後見を取り上げ,信託制度との比較を行う。1 後見は財産管理及び身上監護のための制度であるのに対し,信託は財産管理及び財産承継の制度である。例えば,施設の入所契約の締結について信託を利用して行うことはできない。2 信託は,信託行為における規定の仕方により,直ぐにでも,財産の管理を開始することができる。これに対し,後見は,本人が判断能力を欠くようになってから後見開始の審判がなされることになるため,後見人の選任までの間に判断能力が不十分な本人が財産を管理する期間が生じ,場合によっては,その間に財産が流失してしまうこともあり得る。3 信託では,信託行為の規定の仕方により財産管理の対象財産が決まる。そのため,信託行為においては,特定の財産を敢えて信託の対象としないこともでき,どの財産を信託の対象とするのか入念な検討が必要になる。これに対し,後見においては,後見人が被後見人の全財産を管理することになるため,管理対象財産につき信託のような検討は要しない。4 信託においては,多くの場合,譲渡の形式により受託者が所有者となって対象財産の管理処分権限を有することになり,他方,委託者は対象財産の管理処分権限を有しないこととなる。これに対し,後見においては,本人の財産に関し後見人が管理処分の包括的代理権を持つことになり,本人の行為について取消権を有することとなる。5 信託は,信託行為における規定の仕方により,例えば教育資金コラム信託制度と後見制度の比較
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