1 裁判費用⑴ 概 要〔1〕〔2〕序 章 民事手続法における裁判費用 1 国家は,司法を独占し,私人による自力救済を禁止する。私人による実力行使またはその威嚇は,社会の法的平和を害し,人間社会の存立を危うくするからである。しかし,自力救済の禁止だけでは私人の権利は実現されず,権利を有する者は泣き寝入りを余儀なくされるので,国家は自力救済の禁止に対応して,私人の権利の保護の役割を引き受け,そのために裁判所を設置する。私人の申立てがあれば,一定の要件のもとに,国家は市民に裁判所による権利保護を付与しなければならない(国家の権利保護義務)。 しかし,民事訴訟は原則として私人の私的な利益の実現のために実施されるので,国家はその設置運営する裁判所を私人に無料で利用させてはいない。もちろん社会政策的な見地から,訴訟制度の利用を無料にすることは理論的には十分検討に値する法政策であるけれども,現実には,国家は,裁判制度の運営に要する費用をできるだけ賄うため,裁判制度の利用者に裁判費用(民訴83条1項1号参照)の支払いを求めている。 ここにいう裁判費用には,いわゆる手数料(民訴費3条1項)と手数料以外の裁判費用が属する。後者は,証拠調べに必要な費用(たとえば証人,鑑定人および通訳人の旅費・日当・宿泊料,鑑定料,通訳料など)および書類の送達費用などである。手数料以外の裁判費用の支出は,当事者が裁判所に予納した金銭によって行われるのであり(同法11条),受益者負担の原則が採用されている。これに対し,訴状・準備書面などの書類の作成費用(書記料)や,当事者および訴訟代理人が裁判所に出頭するために必要な旅費・日当・宿泊料は,訴訟追行のために当事者が支払う費用であり,当事者費用と呼ばれる。民事手続法における裁判費用序 章
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