裁算
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序 章 民事手続法における裁判費用 9れるかが重要な意味をもつ。本書は,主として実務の便宜の観点から行われている従来の訴額をめぐる解釈論12)に問題はないのか,看過できない問題があり,早急に是正されなければならないのか,そしてそれはどのような方向でなされるべきであるかについて検討し,解釈論として問題の解決を求めるとともに,立法的にも対処されるべき重要な課題であることを明らかにしようとするものである。 訴額について解釈論として論ずる場合,当事者が憲法によって保障されている裁判を受ける権利(憲32条)を害さないように解釈されなければならないことに留意する必要がある。それは,裁判所の恣意的な判断によって裁判を受ける権利が影響を受けるような訴額決定の実務が行われてはならないことを意味する。況してや,訴状受付事務の段階でこれを担当する裁判所書記官によって実務の扱いの名の下に,根拠の十分でない訴額算定による手数料の支払いが事実上強いられることがあってはならない。同時に,原告が支払った手数料の額は,被告が敗訴する場合に被告が償還を命じられる訴訟費用額に影響を及ぼすので,訴額がいくらであるかは,権利保護を求める原告のみならず,相手方である被告の利害にも重大な関係を有する事項である。また,第一審で敗訴した当事者は,控訴を提起し原判決の取消しまたは変更を求める場合,不服申立ての限度で,第一審の訴額算定の方法で算定した控訴の手数料訴額を基礎に算出された第一審の手数料額の1.5倍の控訴手数料を支払わなければならないので,訴額算定基準は原告の問題にとどまらないからである。また,すでに述べたように(→〔3〕)日本では,弁護士費用は訴訟費用に算入されず,相当因果関係に立つ損害と認められるものを除き,敗訴者負担原則は妥当しないが,訴額は弁護士の報酬の算定のさいにも考慮されており,弁護士報酬の算定にも影響を及ぼす。 以下では,第1章において訴額に関する現行法上の一般原則を説明し,第2章以下において個々の法領域の訴額算定問題を個別に検討する。12)兼子/畔上/古関・判例民訴(上)20頁は,「とかく,受付事務上,訴状貼用印紙の関係で紛議が生じ,しかも直ちに受訴裁判所の判断を得る実務上の便宜が得難いところから,最高裁判所において,必ずしも合理的且妥当なものであるかどうかは疑問があるが,次の基準(後述の「訴額通知」─引用者)がたてられ,現在原則としてこれによって実務上の取扱がなされている」といい,疑問があることを表明していた。

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