2 はしがきることが望ましい。日本の民訴費用法の母法国であるドイツでは,そのような制度が採用され,裁判官による訴額算定の実務が定着し,多数の決定例が出されている。決定に対して,申立人も相手方も不服を申し立てることができる。ところが,日本では訴状が裁判所に提出されると,訴状の受付段階で事実上の手数料納付の審査が行われ,不足があると判断されるとその段階で収入印紙の追貼が求められる。これに納得できない場合に裁判長の訴状補正命令を受けることができるはずであるが,訴訟の迅速な進行を望む当事者にとっては,時間を失いたくないという心理が働き,手数料納付に不足があると指摘されると,止むを得ず追貼することが多いのではないかと思われる。また,知的財産権訴訟を管轄する東京地方裁判所および大阪地方裁判所のように,裁判所が知的財産権訴訟の訴額算定式を示し,原告にこの算定式に従った計算により訴額を算定して手数料を納付するよう求めている裁判所もある(後掲参照)。ここでは,裁判所が決めた算定式が法律であるかのようにその遵守が求められている。 ⑵ 訴額は金銭の給付を求める訴訟においては,原告は勝訴するとその額の権利の実現に近づくことができるので,給付を求める金額が訴額であり,訴額算定の問題は将来の給付請求(民訴135条)を除きここでは殆ど生じない。問題は,金銭の給付請求訴訟以外の訴訟の訴額について生ずる。前述の訴額通知の考え方は,確認の訴えを中心に据え,確認訴訟で訴訟物となる権利(所有権,占有権,地上権,永小作権,賃借権,地役権,知的財産権等)の価額を決め,これを確認訴訟の訴額とし,所有権,占有権,地上権,永小作権,地上権および賃借権に基づく引渡(明渡)請求については,目的物の価額の2分の1を訴額とみなしている(これらの権利に基づく妨害排除請求についての定めはない)。知的財産権訴訟の訴額の算定も,基本的に,このような方法で行われている。これはいわゆる確認訴訟原型観に基づく訴額算定の捉え方ということができるが,民事訴訟の原型が確認訴訟であるという考え方自体はすでに過去のものである。給付訴訟,確認訴訟,形成訴訟の訴訟類型は,それぞれ固有の制度機能を有する。訴えの類型によって原告(攻撃者)の受ける利益も,当然に異なるものである。給付判決,すなわち給付訴訟の請求認容判決は,給付請求権の存在について既判力を有するのみならず,執行力をも有するので,その効力は確認判決よりもはるかに強力である。それは,訴訟費用の裁判を除き,既判力しかもた
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