裁算
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はしがき 3ない確認判決との大きな違いである。それにもかかわらず,当然のこととして,確認訴訟の訴額が同一権利に基づく給付訴訟の訴額の2倍ということはどこから出てくるのであろうか。給付訴訟における原告の利益は,このような判決効をも考慮に入れて算定されなければならないと考えられる。むしろ,確認判決は既判力しか有しないのであるから,訴額の算定のさいも,所有権その他の権利の確認が求められている目的物の価額からの減額が逆に必要なのではないかという問題が生ずる。類似の問題は,東京地裁と大阪地裁により現在行われている知的財産権訴訟の訴額算定にも存在する。多くの知的財産権訴訟において,競争業者間において知的財産権侵害訴訟が行われる。ところが実務では,たとえば侵害差止訴訟の訴額の算定にあたり競争業者間の訴訟であることを全く考慮せず,将来の損害の回避の観点から,しかも大幅な減額を行う訴額算定基準が示され,これによる訴額算定を行い訴えを提起するよう求められている。差止訴訟の請求認容の確定判決の効力が確認訴訟の請求認容判決の効力よりも遥かに強力であるにもかかわらず,権利の確認訴訟の訴額よりも遥かに低額になる算定式が裁判所によって定められている。 また,裁判実務では,所有権に基づく物の返還請求訴訟の係属中に,原告が同一物の所有権確認の訴え(中間確認の訴え)を提起すると,原告は相当額の手数料の追加納付が必要になる。同様に,被告が同一物の所有権確認の反訴を提起すると,反訴と本訴の手数料の差額を納付しなければならなくなる。しかし,中間確認の訴えは,給付訴訟の請求を認容する確定判決が前提事項である先決的法律関係について既判力を生じないという民訴法114条1項の補完のための制度として,先決的法律関係の存否の判断に既判力が生ずることを望む当事者のために,これを実現する措置として導入された制度であるので,中間確認の訴えによって新たに手数料の支払義務が発生するということは,訴訟物についての訴額算定基準の不合理さを窺わせるに十分である。 そのほか,現在行われている訴額に関する法律規定の解釈には,不合理ではないかと疑われるものがある。たとえば,賃貸借終了のさいに併合訴訟として家屋の明渡しと未払い賃料の支払いが請求される場合,未払い賃料請求は家屋明渡請求に従属する請求ではないにもかかわらず,法定果実であることを理由に訴額の合算をせず,附帯請求(民訴9条2項)として

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